ライター:一色先生
2024.12.25
一色です、こんにちは。
今年の日経ニューオフィス賞受賞オフィスの傾向については前号にて説明しましたが、近年は研究所やイノベーションセンターの受賞が増えています。イノベーションのための様々な創意工夫を具現化しているオフィスなので、注目されることも多いようです。
日経ニューオフィス賞は応募する際に、オフィスの種類や建築区分を記入する欄があるのですが、昨年まではイノベーションセンターの名称がついているオフィスでも、オフィスの種類は「研究所/自社ビル」といった表記が多くありました。それが今年は「イノベーションセンター/自社ビル、あるいは賃貸ビル」と記入される事例が出てきました。
単なる研究所のくくりではなく、イノベーションのための施設をつくるという意思が高まっているように感じます。
そこで今号では、イノベーションセンターの共通項に見られる新しい価値創造の秘訣を深掘りしたいと思います。
イノベーションという言葉はかなり浸透してきているので、説明はいらないかもしれませんが、あらためて意味を述べておきますね。
イノベーションとは、「モノやサービス、仕組みなどに新しい考え方や技術を採りいれ、新しい価値を生み出して社会を変革すること」です。
新しいアイデアはよく生まれると思いますが、新しい価値によって社会変革につながることがポイントになります。企業が成長するために、新しい価値を創造するイノベーションはなくてはならないものです。そこで近年の日経ニューオフィス賞受賞のイノベーションセンターの事例を俯瞰し、その共通項を紹介します。
1.清水建設 温故創新の森NOVARE/2024年
▼画像引用元:清水建設公式ホームページ
1)オフィスづくりの目的
企業のビジョンとして掲げている「スマートイノベーションカンパニー」を具現化する
建設事業の枠を超えた不断の自己変革と挑戦、多様なパートナーとの共創を通じて、時代を先取りする価値を創造(スマートイノベーション)し、人々が豊かさと幸福を実感できる持続可能な未来社会の実現に貢献。
2)オフィスコンセプト
・「温故創新の森」(Smart Innovation Ecosystem)
温故創新_ものづくりの原点に立ち返り進取の精神を育む
森_生態系(Ecosystem)を形成するように、全5施設がそれぞれ自立かつ連携しあう
・「超建設」
社会やお客様の本質的なニーズを掘り下げ「建設」という手段を含む様々なアクションを通じて、多様な価値を社会やお客様に提供し、当社も成長する
3)イノベーションプロセス(創造性プロセス)
持続可能なイノベーションを進めるための4つのプロセス
1.Discover(社会・顧客視点で可能性の発掘)
2.Define(ビジネスモデルの仮設設定)
3.Refine(小規模実践を通じた仮説検証)
4.Scale(事業化・技術の幅広い展開)
4)イノベーション創出のための打ち手
自立かつ連携しあう5つの施設
・NOVARE Academy/ものづくり至誠塾
・NOVARE Archives/清水建設歴史資料館
・NOVARE Hub/ノヴァ―レハブ
・NOVARE Lab/技術研究所潮見ラボ
・旧渋沢邸
「ノーアドレス・オフィス」イス、机、植栽、収納など全てにキャスターをつけ柔軟に変化できる。照明、空調も統合制御
「超個別空調システム」タグにより個人の位置情報を特定しその範囲に最適な温熱環境を実現
「ウェルビーイング」自然換気、バイオフィリック、個別対応温熱環境
2.ネットワンシステムズ イノベーションセンター(netone valley) /2024年
▼画像引用元:ネットワンシステムズ公式ホームページ
1)オフィスづくりの目的
・イノベーションの創発
・分散機能の集約によるシナジー効果:空間の合理化
・新たなスタイルを確立するワークプレイス:個人組織のパフォーマンス向上
・進化し続ける匠の技術を体現
・ライフを中心とした新しい働き方
2)オフィスコンセプト
「うまれるアイデア、つながるネットワーク」
3)イノベーションプロセス
「従来の型を破り、離れた「オフィスの守破離」
4)イノベーション創出のための打ち手
・学びの要素のあるオフィス:社員の成長を促す
・従来の仕事を変える:働き方から働きがいへ
・ライフ中心のハイブリッドワーク
―在宅メインでオフィスにくる目的を大事に
―ライフの要素をオフィスに取り込む
・倉庫をワークプレイスに
・内部階段の設置
・屋上ガーデンテラス
・ケーブルレス化
・オフィスのオープン化(壁の撤去)
・自然と癒しの演出が宿る豊かな時間と空間
・バレーをテーマにしたアート
・五感を刺激する空間
・社外交流
―小学生93名とウォールアート
―地元の大学とのアップサイクル活動の普及
―IT業界イベントのオープンコミュニティ
・イノベーションに向けた挑戦と実証実験の場
3.ミズノイノベーションセンター「MIZNO ENGINE」/2023年
▼画像引用元:ミズノ公式ホームページ
1)オフィスづくりの目的
・MIZUNO MIRAI VISIONの体現の場
・MIZUNO MIRAI VISION(研究開発ビジョン)
スポーツの定義を「楽しく体を動かすこと」とし、「スポーツで人を幸せにする」という使命に向かい、「みんなが楽しく体を動かす社会。スポーツの力で社会課題を解決する世界。」の実現をめざす。「競技」、「健康」、「環境」、「教育」、「ワーク」の5つの領域において、スポーツにできることを追求し、スポ―ツの力による変革を実現する
2)オフィスコンセプト
「NEWEST FUN」
スポーツの楽しさを、すべての起点に
『はかる・つくる・ためすの高速回転』、『オープンで化学反応』によって、スポーツによる社会イノベーション創出を加速する。
3)イノベーションプロセス
「はかる」
「ためす」
「つくる」
4)イノベーション創出のための打ち手
多種多様な「はかる、つくる、ためす」専門設備、空間が一堂に集積
一か所に集まっているから、高速回転できる。
一か所に集まっているから、交流が生まれ、化学反応が起こせる
・社内で繋がる
・フレキシブル
・チャレンジ
・見える化
・オープン
・外部と繋がる
4.Kurita Innovation Hub/2023年
▼画像引用元:NOPAニューオフィス推進賞公式ホームページより
1)オフィスづくりの目的
・次世代の研究開発拠点の必要性
・クリタグループのコミュニケーション促進
・顧客や外部パートナーとの交流機会増強
2)オフィスコンセプト
「社内外の多様な人々が集い、学び、つながる、技術革新・社会変革の中心地(ハブ)
3)イノベーションプロセス
「動く」
「気づく」
「ひらめく」
―対面会話の機会を増やすことが重要
4)イノベーション創出のための打ち手
・空間
―五感の活用
―仕切のない見通しの良い空間
―人が自然に集まる場所の設置
―最短距離で移動できない動線
・運用
―ABW(対面会話の機会を創出するためのツール)
【まとめ】イノベーションセンターの共通項
ここまで特徴的なイノベーションセンターの事例を見てきました。まとめとして、共通する要素について下記に整理します。
1)イノベーションのプロセスが共有されている
自社にとってイノベーションとは何か。イノベーションを創出するためにどのようなプロセスで、どのような働き方をするかが共有されています。
2)社内外コミュニケーション活性化のしかけと場がある
社内の他部門との積極的な交流を促進しているだけでなく、社外の多様な人々との交流を促進しています。
3)共通目的の浸透と貢献意欲
成果を出している組織は、ビジョン、パーパスなど目的が共有され、組織員全員に浸透されています。
4)挑戦を後押しする風土
新しいこと、今まで取り組んだことのないことに挑戦することが当たり前になっています。失敗を許容する組織というのがありますが、それは失敗することが悪いという前提にたっているので、挑戦することが成功への近道だと認識している風土であるかが大事です。
5)ウェルビーイング(快適・ラクラク)の環境
ストレスなく快適、ラクラクに働ける環境になっているか。個々の人によって快適環境は異なるものなので、それぞれの人にとっての快適環境を選択できるかどうか。
共通項は5つでしたが、イノベーションセンターの根本にあるのは、結局チェスターバーナードの組織の定義である
・コミュニケーション
・共通目的
・貢献意欲
の強い組織といえます。
あなたのオフィスは、コミュニケーションが活性化していますか?
明るい挨拶ができていますか?
他部門の人との会話は多いですか?
社外の多様な人との交流はありますか?
組織の大事にしていること、目指していることをすぐに答えられますか?
組織のために自分が何によって貢献できるのか?
これらを意識して仕事に取り組める環境でしょうか。自身を、自社のオフィスを今一度振りかえる機会としていただければ幸いです。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
参考情報 | オフィスの広場 気になるワダイ!2024.01.31「2023年日経ニューオフィス賞受賞オフィスの傾向は?」
ニューオフィス推進協会HP 「THE BEST OF NEW OFFICES 2023」発行 一般社団法人ニューオフィス推進協会 「THE BEST OF NEW OFFICES 2022」発行 一般社団法人ニューオフィス推進協会 |
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ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。
水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。 水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
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