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オフィスに関わるあんな人こんな人、ご紹介します!

2011.09.12

池田晃一:株式会社岡村製作所/オフィス研究所
「はたらく場所が人をつなぐ」

ICTの発達に伴い、オフィス外でも仕事を進めることが可能になり、サードプレイスの活用や在宅ワークの導入を検討する企業が増えている。特に、東日本大震災の発生後には、BCPへの関心の高まりから人やモノが一箇所に集中するのではなく、分散化にも耐えうる組織、ワークスタイルに変化させていこうという取り組みが一層注目を集めてきた。
 このような変化を受け、必ずしも同じチームのメンバーが同じ時間・空間で働くといった状況だけがオフィスやワークスタイルのステレオタイプではなくなってきているが、一方で、働く時間や空間の違いが生まれたことにより、社員同士の状況共有が疎になったりコミュニケーションの希薄化が進んだりすることが新たな課題として認識され始めている。
本記事でご紹介する岡村製作所オフィス研究所の池田氏は、こうした新たな時代に適したワークスタイルを”Copresence Work“と定義し、「チーム」や「場所」をキーワードに社員同士が状況を共有し「つながって」働く方法を研究・実践している研究者である。また、この”Copresence Work“を中心テーマに据えた書籍『はたらく場所が人をつなぐ』を今年5月に出版し、これからのワークスタイルとオフィスの関係を世に問う試みも行っている。
 今回は、池田氏が進めている”Copresence(共在感)”に関する研究内容やこれからの働き方・オフィスに対するお考えを伺った。

■ 株式会社岡村製作所http://www.okamura.co.jp/
■ 書籍「はたらく場所が人をつなぐ」 http://www.office-hiroba.com/library/backnumber/book/1676.html

ユーザー視点からいかにオフィスをつくっていくか

「私の仕事を一言であらわすと”はたらき方の研究“ということになります。
 企業がオフィスをつくる際、どうしても経営の視点からの要望が強く反映され、効率を重視するあまり、オフィスがワーカーにとって窮屈な場所になってしまっているのではないかという問題意識があります。もちろん経営の視点も重要なのですが、どうしたらワーカーが幸せに働けるか、やりがいを感じられるか、という視点も考慮し、双方のバランスをとっていく必要があると考えています。
 そのために、実際働いている人の行動を観察したり、オフィス空間を分析したりといった研究活動を通して、ワーカーの行動に則した要素を見つけ出していく取り組みを日々行っています。」

研究成果を現場に還元することが自分の役割

 「また、そういった研究を理論のままで終わらせるのではなく、研究成果を、いかに現場のオフィスデザインに還元していけるかということが企業人である私の使命だと考えています。
 そのために、実際のオフィスづくりにも携わり、コンセプトメイクやワークスタイル、オフィス空間の提案等も行っています。経営者の方たちに対してコストで表せる以外の数値を示し、その効果を伝えることで経営者、ワーカー双方が満足するオフィスを実現するのが現場における私の役割です。
 執筆活動もそうした成果を発表する場の一つとして考えており、研究成果だけでなく、実際のオフィスでの検証結果も含めた内容にすることで、現場の経営者やワーカーにも納得していただけるよう心掛けています。」

社会人留学から得たこと

 「“ワーカーの視点でオフィスを考えたい”という理想はあったのですが、具体的に行動や空間を分析して知見を得ようと動き出したのは、社会人6年目から3年間、国内留学という形で、東北大学建築学科の本江正茂先生の研究室に籍を置かせていただいたのがきっかけです。
 大学では、「創造的なグループワークと環境」というテーマで、空間の可変性がユーザーの創造力に与える影響を明らかにする研究を行っていました。テーブルやホワイトボードなどあらゆる家具を可動式にして、その環境でグループワークを実施し、ユーザーの行動と、それぞれが出すアウトプットの質を調査するのです。
 結果としてユーザーが作業にあわせて本当に多様な工夫をし、自分なりの働く場所を作っていることがわかりました。よくオフィスを計画するときに“ワーカーに自由度の高い空間を与えてもなにもできない“というご意見をいただくことがあるのですが、調べてみるとそんなことはなかったんです。」

まず自分たちで“Copresence Work“をやってみる

 「大学での経験を活かし、現在、ユーザーの行動を分析するシステムやユーザー工夫を支援する目的を継承して”Copresence Work“の研究・実践を行っています。
たとえば今、開発中の”Birds & Bugs“というシステムは、その名前の通り鳥の目(=Birds)と虫の目(=Bugs)でオフィスを捉える試みです。

 具体的に“鳥の目”は、物理的な空間の特性を捉えるためのもので、オフィス内の各エリアの天井部にカメラを設置し、そこでのワーカーの身体的な行動を分析しています。また、”虫の目”は我々が働く上でやりとりする雑多な情報を捉えるためもので、社内の各チームにTwitterとBlogを組み合わせたポータルサイトを構築し、Twitterでのやわらかい情報からBlogでの比較的硬い情報までを一覧できる環境を設けています。サイトで公開されている情報は基本的にオープンなものなので、その内容やワーカー間のインタラクションを分析し、組織の中でミクロに起きているアクティビティや関係性を明らかにしようとしています。この”2つの目“から得られた知見をもとに、どうしたら、働く時間や空間が異なったとしても互いがつながりを感じられるか、という実験検証を進めているところです。」

オフィスに対する意識を高める、参加意欲を生み出す

「その他にも、”Work Tunes”という社員同士が音楽を紹介しあう仕組みを考えて有志で試験運用しています。
 テレワークなど一人で仕事を行う際、音楽やラジオを聴きながら働いているという声をよく耳にします。つまり、それは個人個人がそれぞれ働く行為に適した音環境を持っているってことで、どうせ同じ目的で集めているのなら共有しちゃおうという軽い気持ちで始めたのが”Work Tunes”です。

 この仕組みは紹介するのも恥ずかしいくらい単純で、ブログ形式でそれぞれが聞いている音楽を紹介し、それに対して他の人がコメントできる環境をつくるだけです。あとは紹介した音楽のCDを置く棚をオフィスの一角に設置する。それだけ?と感じられる方がいらっしゃるかもしれませんが、主催者側で用意するプラットフォームはそれだけです。ただ、お互いの音環境を共有し、さらに物理的なオフィスでそれを介してコミュニケーションを行う。ネット内に閉じないことがリアルなオフィスに集う意味も高めますし、実際若手を中心に活発なやり取りが行われています。
 音楽を共有するというのは、直接業務に関係しないように感じるかもしれません。「公私混同だ」とか「無駄だ」と思われるのは当然のことです。でも、この取り組みの狙いは、音楽を共有すること自体ではなく、ワークスタイルやオフィスづくりに関して、ワーカーの参加意識を高めることにあります。

 仕事がはかどる音楽という身近な話題から、自分らしい働き方を考えるきっかけをつくることで、徐々に「こんな働き方がしたい」「こんな空間がほしい」なといったユーザーの”働くこと”に関する意見を引き出すことができるようになると期待しています。いきなり「イスについて話してください」とか「働き方についてどう思いますか」と聞かれてもとっさには答えられないですよね。だから回り道かもしれないけど、その土壌をつくろうというのです。」 写真

安価で小さな仕組みからはじめてみることの意味

「以上のような仕組みを企業に提案する際によく引き合いに上がるのは、コストの問題です。ICTを用いたシステムの導入というと大規模でコストが掛かると思われがちですが、私たちが試用している仕組みは、ほとんど費用や手間をかけずに実現することができます。多額のコストをかけていると“効果”を数値で実証しなければいけませんが、コストや手間をかけずにという風になれば導入のハードルは下がるのではないか考えています。

 弊社はICTベンダーではなく、家具メーカーであるため、あくまで提案の中心はいかに理想のオフィスを実現するかです。でも、最近は家具やインテリアをより活用し、愛して使ってもらうためにはハードの提案だけでなく、運用のルールを考えたり、ここで取り上げたようなシステムのようなものを併せて提案したりしないと駄目なんです。そういう意味でも私たちは身の丈でできること、実際に自分たちが経験したソフト的な工夫を、お客様が実際に負担なく運用できる範囲で併せて提案していこうとしています。」

どんな変化にもワーカー視点の立場から対応していきたい

 「ここで紹介したようなICTを活用した仕組みは、まだまだ実験段階でお客様に提供できるレベルにはありませんが、今後も、オフィス空間や家具のデザインだけでなく、運用やシステム面も含めて、”Copresence”をキーワードに研究を進めて行きたいと考えています。
 時代の流れから一箇所に集まって同じ時間に働くということだけではない新しいワークスタイルに対応していくことが求められていきます。そんなときに、何が問題になるのかはそれぞれの組織で異なります。分散して働けといわれるけどPCは持ち出せないしクラウドサービスも禁止されているとか、会社以外に働ける空間が少なくて結局オフィスに来てしまうというのはまだ、新しい潮流にルールや空間が追いついていないからなんですね。センターオフィスもまた然りで、それぞれ時代に合わせて大きく変わっていきます。そのときにいかにワーカーが自らの力を発揮できるようにするか、チームとして協力し合えるかを念頭において提案につなげていこうとしています。
 研究者というとなんか上から強引に”これが正解”、“これをやれ”と理想論を掲げて進めていきそうに感じられるかもしれませんが、私自身はワーカーの行動をしっかりと分析したうえで、どうにかユーザーの参加意識を高めながら進めていけないかということをいつも考えています。」

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 今回、池田氏とお話をしてみて非常に意外だったことは、研究者の肩書きを持つ氏の言葉から強い現場への意識が伺えたことである。
 私の勝手なイメージかもしれないが、研究者というと新たな理論や方法論を生み出すことがメインの活動であり、現場での実践は他の人間に託す印象がある。
 池田氏も”Copresence(共在感)“というキーワードを掲げて、新たな働き方やオフィスのあり方を研究や執筆活動をされているが、その内容には常に現場での実践の結果が添えられている。インタビューにおいても、氏が繰り返したのは、「どうしたら企業に受け入れられるか」「現場のユーザーが快適に働けるか」という現場目線の言葉だった。

 本文でも書いた氏が働くオフィス研究所での取り組みが、実験段階ながら現実味を帯びて聞こえたのは、いきなり顧客に提案するのではなく、まず自分たちがユーザーの立場で実践して効果や意味を確かめてみるという姿勢によるところが大きい。
 今後、更なるICTの発達に伴い、ワークスタイルやオフィスを考える上で、社員同士やチームのつながりが大きなテーマになることが予想される中、池田氏のような研究者の存在はとても大きなものになっていくだろう。

プロフィール池田 晃一 

(株)岡村製作所オフィス研究所研究員。
1975年東京都生まれ。大学で農業、大学院で情報デザインを学んだ後、2002年に(株)岡村製作所入社。
07~10年に東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻本江正茂研究室に国内留学。博士(工学)。10年より現職
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