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オフィスに関わるあんな人こんな人、ご紹介します!

2014.12.03

渥美由喜:ダイバーシティコンサルタント
「ワークもライフも、引き算と掛け算で考える。身近な人の笑顔を守るために。」

あなたの会社は、ワークライフバランスやダイバーシティに取り組んでいますか?
もし明日から、親の介護が始まったら。
もし急に家族が病気になり、家事をやらなきゃいけなくなったら。
はたして今の仕事をそのまま続けられるかどうか、考えたことがありますか?

ダイバーシティ、ワークライフバランスの研究者として、国内外900社を企業ヒアリングし、コンサルタントとして多数の企業の取り組みを支援している傍ら、私生活では子育てに加え父親の介護にも奮闘しているという、東レ経営研究所の渥美さんにお話を伺いました。

―これまでのご経歴についてお聞かせください。

大学卒業後、10年シンクタンクに勤めておりました。当時、やればやるだけ成果が上がる、残業ウェルカムな超ワークライフアンバランスだったので、それに違和感をおぼえ退職しました。2社目は富士通総研にて5年ほど。職場風土はよかったのですが、あるとき現職(東レ経営研究所)の元社長の佐々木常夫さんという方を知りました。60代の男性には珍しく、3人のお子さんの子育て、家事、鬱になられた奥様の看病をしながら仕事を頑張っていらっしゃる方でした。その方の本を読んで非常に感動しまして、とあるシンポジウムでお会いしたときに声をかけさせていただきました。私ももともとワークライフバランスのことをやっていたので、私のことを知っていてくださいまして、その際に、採用してほしいと直接お願いしたのです。現在東レ経営研究所で5年目になります。

―現在の業務について教えてください。

ワークライフバランスとダイバーシティの研究およびコンサルティングに従事しております。研究者としては、国内外900社、企業ヒアリングをしてきました。一般企業を含めると約4,000社のデータが集まっています。このテーマに関してはオタクといえますね(笑)。現場に足を運んでいる数は一番多いと自負しています。 中小企業は社長にヒアリング、人事の担当者にも話を伺いますが、いいことしか言わないところもありますので、本当のところを聞きたいときは労働組合や直接社員の方に聞いたりもします。

―日本ではダイバーシティは非常に遅れている現状ですが、企業によって取り入れやすい/取り入れにくいというのはあるのでしょうか

導入している企業が比較的多い業界か少ない業界か、というのはありますが、できない業界はないと私は思っています。できない理由はいろいろと聞きますが、解決策は必ずあります。

また中小企業は遅れているとよく言われますが、これは完全に間違っています。これまで私が訪問ヒアリングしてきた国内外の先進企業は過半数が地方の中小企業です。50名以下のサイズの会社では社員一人ひとりの顔が見えるので、家族の状況なども視野に入れてマネジメントせざるを得ない状況になりますので、そういった意味では小さければ小さいほど進めやすいですね。もちろん代替要員が確保できないという中小企業ならではなの難しさはあるため、まったく取り組んでいない企業もたくさんあります。中小企業の取組は二極化しているというのが正しい理解です。
逆に、大きい会社になると、社員一人ひとりが“歯車”になってしまい、ワークライフバランスなどと言うならほかに代わりはいくらでもいる、となってしまいがちなのが現状です。

―「イクメンプロジェクト」でもご活躍されていますが、2度、育児休業を取られた経験はご自身にどんな変化をもたらしましたか。

人生経験が非常に深まりましたね。保育園の送り迎えという制約がある中でなんとか仕事を終えなければいけない、となると格段に業務効率が高まりましたし、また、家事も育児も同時並行で段取りよくこなさなくてはならず、同時並行力が高まった感じがします。もう一つ一番大きかったのは、コミュニケーション能力です。普段、言葉が通じない赤ん坊と接していると、それまではけむたく思っていた上司や部下に対しての感覚が変わりました。上司に対しては、あっ、日本語、通じる!とか、部下に対しては、小さいころ、かわいがられたんだろうなと思うとふつふつと父性愛みたいなものが沸いてきたりしました。

イクメンプロジェクト

―まだまだ日本企業では、イクメンになりたい(育児休暇を取得したい)と思っても、なかなか声を上げられないという現状があると思いますが、それはどうしたら乗り越えられるでしょうか?

本人の壁は、業務を抱え込んでしまって、自分にしかできないという状態に価値を見出しそれを守ろうとする考え方ですね。そこを一歩踏み出して、誰かに代わってもらいやすいように、オープンにして共有する。それで業務効率が高まった結果得た「ライフ」の時間で生み出す付加価値で勝負していく。そういうふうになっていくと、本当の意味でワークとライフが相乗効果を生み出すんです。業務をオープンにすることによって、自分のポジションがなくなってしまうんじゃないかという心配をする人も多いと思う。この一歩を踏み出すのは勇気が要りますよね。ただ、それで確実に本人も周囲も変わっていき、業績も上がってくると信じて一歩を踏み出してほしいです。

―今の働くスタイルで心掛けていること、気を付けていることはありますか

故スティーブ=ジョブズの言葉で「もし今日が最後の日だったら何をするか」というのがあります。妻に対しても子供に対しても、もし今日が別れの前の日だったら何をするか、という考え方を常にしています。私はいま父の介護や家族の看護を優先して暮らしていますが、そもそも上司や社長に良く思われたい、という価値観があまりない人間です。 もちろん、弊社の元社長の佐々木常夫氏のように心から尊敬できる人に対しては自分の上司とか、そういうのとはまったく別の次元で誠心誠意対応したいと思いますが。基本的に、相手と自分の力関係で、理不尽なことにまで相手の言いなりになるなんてバカバカしいと思っています。
顧客や仕事をご一緒した人には、最低でも150点、できれば200点で返したいという気持ちはありますが、それも相手次第です。
大学時代のクラスメートは官僚になって、一部は政治家になっていますが、その中には酔っぱらうと「国のためなら、わが身を投げ出す覚悟がある」と、滅びの美学を語る奴らがいます。全員ワークホリックの男性ですね。「どうぞ、勝手に滅んでください。ただ、巻き添えにしないでくれよ」という感じです。

わが身や家族を顧みず、国のために、なんてちょっと嘘くさいと思います。家族や身近な人を大切にできなくて、どうやって社会を幸せにできるのか?ということです。だから大切な人との時間を有意義に使えるよう、私は普段、仕事もプライベートも「引き算」で考えます。会社の忘年会や新年会でさえ欠席することが多いですし、せっかく持ちかけていただいた仕事も選別し、やらない仕事を先に決めます。人に好かれるやり方とは思えないので、あまりお勧めはしないですけどね(笑)。

選択じゃないですか、人生って。往々にしてワークライフバランスが下手な人は、引き算が下手なのではないかな、と思うんです。やらなくていいことばかりやっている。多くの人は、仕事プラス介護、育児、と足し算で考えますが、何をやるか、ではなく何をやらないべきかを決めて、残りを掛け算で相乗効果を生んでいくという風に考えると自然と効率が良くなっていきます。

私は、ワークとライフを足し算で考えるのではなく、引き算と掛け算で考えています。「会社員・子育て・家事・介護・看護・子ども会」の6Kを足し算で考えると、どう考えても24時間では足りません。そこで、その時点での最優先事項を残して、後は引き算。やるか、やらないかで迷うと、それだけで脳はかなりエネルギーを使うそうです。だから、私はやらないことをさっさと決めています。そして、やらねばならないことは周りを巻き込み、掛け算で一石三鳥の効果を生み出せないかを考えています。

―一石三鳥とはすごいですね。具体的には?

例えば、運動したくなったら、近所をジョギングする代わりに、体力消耗系の「使わなくなった家電を庭の倉庫に運ぶ」作業に取組みます。運動不足になりがちな育休中には、赤ん坊をダンベル代わりによく「高い、高い」していました。
家事と育児も掛け算で考えます。長男は妻に似て、低血圧で寝起きが悪いタチです。以前、保育園に通っていた頃、大声で叱って起こす日々が続いたある日、一計を案じました。保育園で植物を育てる楽しさに目覚めた彼といっしょに、野菜の種を買いに行き、庭を耕し、種を植えたのです。翌朝、寝床でぐずぐずしている息子に声をかけます。「えんどう豆さんがお水をほしいって言ってるぞ。早く起きないと、お父さんが水をまいちゃうぞ」 むくっと起きた息子は、「僕がやる」と庭に飛び出していきます。今年の夏も、彼が育てた美味しい野菜たちが食卓を飾りました。早起き、理科教育、食費節約の一石三鳥です。

私は、介護と子育てを別々にやるのではなく一緒にやり、なおかつ相乗効果が生まれないかを考えています。
仕事の後、2人の息子を学童保育や保育園に迎えに行く場合は、そのまま実家に寄り、一緒に過ごして夕食も済ませ、父の就寝前までを見守る生活を続けています。父は私が一人で行くよりは、孫たちが元気な顔を見せるほうがよっぽどうれしいようです。息子たちも父が大好きで、ある時など「じいじはすごい手品をするんだ!」と興奮しているから、いぶかしく思って、よくよく話をきくと、「じいじはお口から自由に歯を出したり、入れたりできるんだよ!」父が手入れをするため、入れ歯を手のひらに乗せていたのでした。「僕もあの手品の歯が欲しい!」とねだられ、可笑しいやらあきれるやら。ワークでのストレスなどいっぺんに吹き飛びます。

一人で何役もこなさなければいけなくなる人口減少社会においては、時間の使い方についても、このような「引き算と掛け算」の発想も必要になると思います。

―「引き算と掛け算」で仕事も家庭生活も考える。いいコツを教えてもらいました。

―今後こうなってほしい、こんなことをやってみたい、というお考えがあったらお聞かせください。

ダイバーシティをもっと広めたいというのと同時に、今の研究テーマの一つは例えば“LGBTが活躍できる職場づくり”です。これからの企業の課題だと思います。

差別や違和感がゼロなんて社会はありません。自分と異なる性質、考え方、宗教等の人に対して違和感を覚えるのは自然な感情だと思います。違和感をなくすのではなく、違和感を感じたときの折り合いの付け方、自分の中でどう修正するか、といった能力、スキルを身につける、ということですね。LGBTの人がそばにいたときにそれを受け入れて、お互いに尊重し合う「インクルージョンスキル」を養うことがとても重要です。また、私のような価値観は、日本企業では異端児なのでいろいろと叩かれた経験はキリがありませんが、そうしたバッシングを乗りこえる心構えや知恵も伝えていきたいと思います。

※LGBT:http://ja.wikipedia.org/wiki/LGBT

―そういった世の中に早くなるよう、少しでも自分にできることを実行していきたいと思います。今日はありがとうございました。

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筆者はこれまで少なくない数の会社を経験してきましたが、働き方改革に関心を持ち、率先して進めている会社は非常に少なかった。むしろ残業が長ければ長いほど評価されるような会社や、進めようと思っていても上司や古くからいるいわゆるお局様などが進めようとしない状況が多くあったように思います。それに反して、最近取材のため多くの企業を訪問していて、新しい働き方をどんどん導入している会社も多く見受けられます。そんな会社の社員の顔はイキイキとしているし、オフィスづくりにもモチベーションをアップするよう工夫を凝らしているような会社だったりするのです。

わかってはいるけど、なかなかできない、何から始めればいいかわからない・・・という企業も多いかと思います。ぜひ、渥美さんに相談してみてほしいと思います。

社員一人ひとりが、人間らしく生活し、仕事をして、心身ともに良いバランスでいられること。それが良いサービスや良い商品へとつながっていくのだと感じます。

プロフィール渥美 由喜(あつみ・なおき) ダイバーシティコンサルタント

1968年生まれ、東京大学法学部を卒業後、富士総合研究所(現・みずほ情報総研)、富士通総研を経て現職、東レ経営研究所。国内外のワーク・ライフ・バランスや業務の効率化に取り組む先進企業900社を訪問ヒアリングし、4,000社のデータを分析。最近では、コンサルタントとして多数の企業の取り組み推進を支援、タイムマネジメントの導入にも取り組んでいる。内閣府「少子化社会対策推進会議」、「ワークライフバランス官民連絡会議」、厚生労働省「イクメンプロジェクト」委員等の公職を歴任。私生活でも2回育児休業を取得、現在は子育てとともに父親の介護にも奮闘中。

<主な著書>『イクメンで行こう!』、『ムダとり時間術』(日本経済新聞社)
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