ライター:一色先生
2025.10.27
こんにちは。一色です。
ここ数年、「地域に開かれたオフィスづくり」に取り組む企業が増えています。
オフィスを社員だけの空間ではなく、地域の人や企業、学生、行政などと交流できる場として開放する動きが広がっているのです。
たとえば、カフェやギャラリーを併設して地域住民が気軽に訪れることができるようにしたり、イベントやワークショップを通して地域と共創するようなオフィスが増えています。
こうしたオフィスづくりは、単に地域貢献という枠を超え、企業の成長や社員のやりがいにも大きな効果をもたらしています。
今回は地域に開かれた空間を備えている特徴的なオフィスを具体的な事例を交えて紹介します。

1.安井建築設計事務所(東京)オフィス 美土代クリエイティブ特区
▼画像引用元


概要
築約60年の既存オフィスビルをリノベーションし、「まちにひらく・クリエイティブを育む」ことを目指したオフィス再生プロジェクトが実施されました。このプロジェクトでは、創業100周年という節目に千代田区から神田美土代町へと本社を移転し、地域の歴史や文脈を尊重しながら、街とつながる場づくりに重点が置かれています。
特に注目すべきは、建築設計事務所自身のオフィスの1階部分を、地域住民が自由に利用できるギャラリーや地域交流のためのスペースとして公開している点です。オフィス全体の設計においては、あえて「つくり込みすぎない」余白を残すことで、社内外の人々の自発的な活動を引き出す工夫がなされています。こうした設計により、オフィスは単なる業務空間にとどまらず、地域社会との接点やコミュニケーションの場としても機能し、「オフィスを部外者に開く」新たな仕組みが築かれているのです。
地域に開かれた特徴
1階には展示やワークショップ、小規模イベントができるステージやキッチンが設けられ、地域の人々や来訪者が自然と参加できる空間となっています。屋内から半屋外、そしてまちへと連続するデザインにより、日常の延長として街とつながる場が生まれました。
内部は吹き抜けや階段、可変式の間仕切りを活用し、人の行き交いと偶発的な出会い――いわゆるセレンディピティを誘発。会議室やワークエリアも余白を意識した構成で、多様な使い方が可能です。
また内装では、配管や補強板など既存建物の「痕跡」をあえて露出させ、時間の積層と地域性を表現。地域住民や通勤途中の人々がふらりと立ち寄れる、敷居の低いオフィスを目指しています。
参考:安井建築
2.ボッシュグループ(横浜都筑区)本社の地域文化センター設置事例
▼画像引用元


概要
ボッシュは1911年に日本での事業を開始し、2024年5月には本社を東京都渋谷区から神奈川県横浜市都筑区へ移転しました。新本社の敷地内または隣接地には、地域住民と街のための「文化センター」が設置されており、オフィスが地域文化の拠点としても活用されています。
この取り組みは、官民連携(Public-Private Partnership:PPP)による新たな拠点づくりの一環で、都筑区民文化センターとの一体整備として計画されました。
新しい複合施設の名称は「Bosch Forum Tsuzuki(和名:ボッシュ・フォーラム・つづき)」とされており、本社およびR&D施設に加え、区民文化センターや両者をつなぐ全天候型プラザなどが含まれます。地域と企業が共生する、未来志向の拠点です。
地域に開かれた特徴
社屋の敷地内には文化センターが設けられ、地域団体や住民が自由に利用できる場として開かれています。オフィス棟、文化施設、広場が連携する複合的な設計により、社員のためだけでなく、地域に根ざした文化・芸術活動の拠点としても活用されているのが特徴です。
建物内には一般来訪者向けのカフェ「café 1886 at Bosch」やショールーム、ミーティング・貸出スペースなども整備されており、地域の人々が自然に立ち寄れる「まちの場」として機能しています。
これは単なる企業の本社設置にとどまらず、地域住民に開かれたアクセス可能な空間づくりを意識した取り組みです。公民連携の枠組みを活かしながら、自治体や地域と企業が共創することで、地域に賑わいをもたらす新たな都市拠点が形成されています。
参考:ボッシュ公式ホームページ
3.中野区役所(東京都中野区)の「市民に開かれた役所」としての取り組み
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画像引用元


概要
中野区の新庁舎では、「迷わない・動かない・待たない・書かない・行かない」をコンセプトに掲げた“なかのスマート窓口”の運用が始まりました。窓口機能を一か所に集約し、移動や記入、待ち時間の削減を図った設計が特徴です。
庁舎は地上11階・地下2階の構造で、駅前の再整備エリアに建設されました。耐震性や防災性も高く、災害時の拠点としての役割も担います。また、都内自治体庁舎として初めて「ZEB Ready(ゼブ・レディ)」の認証を取得し、省エネ性能の高い建築物として環境にも配慮しています。
内部では職員の働き方も刷新され、オープンフロアやフリーアドレスを採用。業務内容に応じて働く場所を選べる「ABW(Activity Based Working)」を導入し、柔軟な働き方を支えています。
さらに、税や保険料の支払いが可能な「税公金ステーション」を導入し、24時間利用可能な仕組みで利便性を高めました。
この新庁舎は、「つながる はじまる なかの」というキャッチコピーのもと、行政手続きの場にとどまらず、人が集い交流する地域のハブを目指しています。“書類のために行く”場所から、“ちょっと立ち寄る”空間へ。役所と地域住民の距離を近づける新たな試みです。
地域に開かれた特徴
新庁舎の1階には、展示・休憩・相談ができる「ナカノのナカニワ」が設けられ、地域団体による展示の募集も行われています。隣接するイベントスペース「ナカノバ」は、文化・芸術・市民活動の発信拠点として、区民が気軽に立ち寄れる場となりました。
庁舎内にはミーティングルームなどの貸出スペースも整備され、スマートロックの実証導入が進むなど、地域活動の場としての活用も視野に入れた仕組みが構築されています。
また、1階テラスにある「カフェテリア ナカノヤ/NYAcafe」では、地域イベントのPRや課題の発信が行われ、飲食を通じて行政との接点が自然に生まれる場として機能。誰でも立ち寄れる環境が整えられています。
さらに、コミュニティアプリを通じたデジタル交流も促進されており、庁舎というリアルな空間とオンラインのネットワークが補完し合いながら、「住民×住民」「住民×行政」「商店街×地域」の多層的なつながりを生み出すことを目指しています。
参考:中野区新庁舎のご案内
4. コクヨ株式会社 東京・品川オフィス「THE CAMPUS」
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画像引用元


概要
品川区港南エリアにある自社ビルを大規模リノベーションし、2021年2月に「みんなのワーク&ライフ開放区」をコンセプトとする「THE CAMPUS」が開設されました。オフィス機能に加え、誰でも利用できるラウンジやコーヒースタンド、ショップ、中庭や公園のような屋外空間など、街の人々が自由に出入りできるパブリック空間を併設しているのが特徴です。
施設内外では「街の人と街を楽しむ“文化祭”」と題したイベントも実施されており、地域住民や企業とともに創り上げる活動が活発に展開されています。オフィスに人を“閉じ込める”のではなく、街へと“開く”ことで新たな交流やにぎわいが生まれています。
地域に開かれた特徴
このオフィスでは、1階部分をコーヒースタンドや文具ショップ、ラウンジスペースとして開放し、地域に開かれた場として機能させています。屋外には「PARK」と呼ばれる中庭・広場が設けられ、日替わりのキッチンカーやイベント出店など、働く人以外の来訪も想定した空間設計がなされています。
社員やワーカーに加え、近隣住民や街を行き交う人々がふらりと立ち寄れる場所として、「閉じたオフィス」から「街に開かれた場」へと明確な転換が図られました。設計や運営においても地域との共創やコミュニティとの接点を意識し、まちの“第三の居場所”を目指しています。
参考:THE CAMPUS|ようこそ、みんなのワーク&ライフ開放区へ
まとめ
「企業にとって地域との接点を重視したオフィス」を構築するメリットと効果を下記にまとめました。
■ メリット①…
ブランド価値・社会的信頼の向上
地域との関わりを積極的に持つことで、企業の「社会に貢献する姿勢」が明確に伝わります。
地域イベントの開催や文化支援、まちづくり活動などを通じて、企業の存在が地域の中で自然と認知され、信頼感が高まります。
地元自治体や教育機関とのつながりが生まれることで、新しい協働のチャンスも広がります。
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■ メリット②…社員の誇りとモチベーションの向上
地域との関係づくりは、社員にとっても“働く意義”を感じられる貴重な体験になります。
「自分の会社が地域の人々に喜ばれている」「地域をより良くする一員として働いている」という実感が、仕事への誇りやエンゲージメントにつながります。
オフィスでの地域イベントに社員が関わることで、社内外のコミュニケーションも自然と活性化します。
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■ メリット③…イノベーション・共創のきっかけに
地域を巻き込んだ取り組みは、社外の多様な視点と出会う機会にもなります。
地元企業やクリエイター、学生、行政といった異なる分野の人たちとの交流から、思いがけないアイデアや新事業のヒントが生まれることも。
地域は、企業にとって“イノベーションの源泉”になり得るのです。
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■ メリット④…地域活性化とサステナビリティ経営の両立
地域に開かれたオフィスは、来街者を増やし、地域経済を活性化する場にもなります。
また、環境や防災、教育など、地域が抱える課題に寄り添うことは、ESG経営やSDGsの実践にも直結します。
「企業の成長」と「地域の発展」を両立できる点が、これからのオフィスづくりの大きな価値です。
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■ メリット⑤…採用・定着へのプラス効果
「地域とともに成長する会社」という姿勢は、若い世代からの共感を呼びやすく、採用ブランドの強化にもつながります。
さらに、地域に根ざした企業は、社員の地元定着やUターン・Iターン採用にも効果的です。
地域とのつながりが、企業文化としての“温かみ”や“信頼感”をつくり出します。
おわりに
地域とつながるオフィスは、「企業と地域が互いに育ち合う共創のプラットフォーム」と言えます。
社員の誇りを育み、地域に喜ばれ、新しい価値を生み出す。そんな“ひらかれたオフィス”づくりが、これからの総務部門の大きなテーマになりそうです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
| 参考情報 | 第38回 日経ニューオフィス賞受賞オフィス紹介 https://www.nopa.or.jp/prize/contents/congratulation38.html クリエイティブオフィスセミナー2025(ニューオフィス推進協会) |
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一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。
水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。 水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
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