ライター:一色先生
2026.03.24
こんにちは。一色です。
近年、オフィスづくりの世界では「サード・ワークプレイス」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
従来の「本社オフィス」と「在宅勤務」に加え、第三の働く場所としての拠点が企業活動やイノベーションを支える重要な要素として注目されています。
こうした流れを受け、1988年から続く日本の代表的なオフィス表彰制度、日経ニューオフィス賞では、2025年から新たに「サード・ワークプレイス推進賞」が創設されました。

1.日経ニューオフィス賞審査の視点
日経ニューオフィス賞は企業経営に寄与する創造性を高めるための、創意と工夫のあるオフィスが評価されます。

2.2025年日経ニューオフィス賞 サード・ワークプレイス賞受賞オフィス
第1回となる2025年の受賞は次の通りです。
◆サード・ワークプレイス推進賞
・「エアウォーターの森イノベーションハブ」
・「STATION Ai」
◆サード・ワークプレイス奨励賞
・「ワークスタイリング東京ミッドタウン八重洲」
今回はこれらの受賞事例を読み解きながら、サード・ワークプレイスとして評価されるオフィスの共通項を
整理してみたいと思います。
▼エアウォーターの森イノベーションハブ(北海道札幌市)

▼STATION Ai(愛知県名古屋市)

▼ワークスタイリング東京ミッドタウン八重洲(東京都)

(1). 共創を生む「オープンイノベーション拠点」
まず注目すべきは、推進賞を受賞した2施設の特徴です。
札幌の「エアウォーターの森イノベーションハブ」は、地域課題の解決をテーマにしたオープンイノベーション施設です。大学、自治体、企業、市民などが集まり、研究連携や新規事業創出を行う場として設計されています。施設にはコワーキングスペースや研究ラボ、コミュニティエリア、レストランなどが設けられ、地域と企業の共創拠点として機能しています。
一方、名古屋の「STATION Ai」は、日本最大級のスタートアップ拠点として開発された施設です。
スタートアップ企業、大企業、金融機関、大学などが同じ場に集まり、新規事業創出を促進することを目的としています。
建築も「街のような空間」をコンセプトに設計され、廊下をなくし、大小さまざまな居場所が連続する構成になっています。
両施設に共通するのは、
「社会のプラットフォームとしてのワークプレイス」という考え方です。
つまりサード・ワークプレイスとは異なる人や組織が交わることで価値が生まれる場所として設計されています。
(2). 「偶発的な出会い」を生む空間デザイン(セレンディピティを促進する空間デザイン)
もう一つの重要なポイントは、空間デザインです。
「STATION Ai」では、
・螺旋状に連続するスパイラルフロア
・廊下をなくした街のような構造
・大小さまざまな居場所
といった設計により、上下階や異業種の人が自然に交わる環境がつくられています。
一方、「エアウォーターの森」でも
・ガーデン
・レストラン
・コミュニティスペース
など、交流を促す空間が建物内に配置されています。
近年のオフィスでは、「コミュニケーションを促進する」と言われることが多いですが、
サード・ワークプレイスではそれが、より人の行動変容を促す環境レベルで設計されている点が特徴と言えるでしょう。
(3). “空間”ではなく「コミュニティ」を設計している
もう一つ、見逃せない共通点があります。
それは
運営機能(コミュニティマネジメント)です。
例えば「エアウォーターの森」では、社員がコミュニケーターとして入居者同士や企業・自治体との連携を仲介する役割を担っています。
これは単なる施設管理ではなく、人と人をつなぐプロデューサー機能と言えるでしょう。
また、「STATION Ai」でも
・スタートアップ支援プログラム
・企業連携
・イベント
・コミュニティ形成
などの運営が重視されています。 つまりサード・ワークプレイスは空間だけでは成立しません。
「人をつなぐ仕組み」まで設計して初めて価値ある場になります。
(4). 企業の枠を超えて「社会とつながる」
もう一つ重要な特徴があります。
それは地域・社会との接点です。
「エアウォーターの森」は地域課題解決をテーマにした施設であり、大学や自治体と連携しています。
「STATION Ai」もまた、地域産業とスタートアップの融合を目的としています。
さらに奨励賞を受賞した「ワークスタイリング東京ミッドタウン八重洲」では、
・交流を促すイベント空間
・創造性を高める空間構成
・働く人のウェルビーイング
など、働き方そのものの価値を高める取り組みが評価されています。
つまり、サードワークプレイスとは企業の内部空間ではなく、社会との接点となる場とも言えるでしょう。
(5). 受賞オフィスに共通する5つのポイント
ここまでの事例を整理すると、サード・ワークプレイス推進賞を受賞した施設には次のような共通点が見えてきます。
① 社外の人が集まる仕組みがある(スタートアップ、大学、地域など)
② 共創を目的とした明確なコンセプトがある
③ 偶発的な交流を生む空間設計(セレンディピティを促進する空間デザイン)
④ コミュニティを育てる運営機能
⑤ 社会や地域とつながるテーマ
つまり重要なのは「第三の場所」をつくることではなく
「新しい価値が生まれる場」をつくることといえます。
おわりに
サード・ワークプレイスは、単なるコワーキングスペースではありません。
それは企業・地域・人をつなぐ「社会のワークプレイス」です。
今回の受賞事例を見ると、オフィスの役割が「働く場所」から「価値を生む場」へと進化していることがよく分かります。
今後、サード・ワークプレイスは、企業のオフィス戦略においてもますます重要なテーマになっていくと思われます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
| 参考情報 | ▼オフィスの広場 気になるワダイ!
2025.09.29 セレンディピティを促進するオフィス事例 2023.04.07 日経ニューオフィス賞応募の前に知っておきたいこと―審査の視点を紐とく― |
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一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。
水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。 水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
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