ライター:一色先生
2025.07.30
こんにちは。一色です。
今までは「創造性を発揮するための五感が喜ぶオフィス」や「コミュニケーションを活性化するオフィス」、「エンゲージメントを高めるオフィス」など「〇〇をするオフィス」をコンセプトに掲げることが多くありました。しかし近年、特にコロナ禍をへて働き方そのものが大きく揺れ動く中、企業がオフィスに求める役割が変化しています。
それは単なる「働く場所」としてのオフィスではなく、「どう働くか」を導くために仕組みや文化を表現する場としてのオフィスです。オフィスづくりの主眼が“空間設計”から“より働き方設計”へとシフトしてきています。
その傾向は2023年、2024年の日経ニューオフィス賞の受賞オフィスを見ても顕著です。
今回はそうした新しい潮流を象徴するオフィス事例をいくつか紹介しながら、注目すべき“働き方変革を支えるオフィスづくり”のポイントを探ります。

■事例1:武田グローバル本社
オフィスコンセプト:「Way of Working TOKYO」
受賞:2024年度日経ニューオフィス賞推進賞・クリエイティブオフィス賞
タケダグローバル本社の新オフィスは「Way of Working(働き方) 」を主軸に据えた場となっています。特徴的なのは空間を「働くと学びを融合した場」として設計している点です。社員一人ひとりの学び方に対応できるプログラムとそのための空間や、集中作業に適した静かなブース、偶発的な対話を促すカフェテリア、プロジェクトベースで使えるオープンエリア等が共存しています。
また、タケダではこのオフィスの移転にあたり、約2年にわたる従業員参加型のワークショップで「どのように働きたいか」という議論を積み重ねて、企業文化そのもの最定義を進めています。
▼画像参照元

■事例2:エスユーエス東京オフィス
オフィスコンセプト:「WOW!」
受賞:2024年日経ニューオフィス賞推進賞
エスユーエスの東京オフィスは「WOW!(イノベーションはいつもWOW!な考えから生まれるもの。小さなWOWを積み重ね、大きな価値を創造するオフィスへ。社内だけでなく、社外の人もWOW!と思わず声を漏らすような会社のブランディングにもつながるオフィスへ)」を掲げています。
社員一人ひとりが自分らしい働き方=「自律的なキャリアのデザイン」と「働きがい」を追求することを重視しています。
エスユーエスは「働き方変革」を単なる制度変更ではなく、物理的な場を通じて可視化し、従業員の行動変革を促す戦略的手段として位置付けています。
▼画像参照元

■事例3:兼松株式会社東京本社
オフィスコンセプト:「なりたい」をデザインする。=besign(ビサイン)
受賞:2023年ニューオフィス推進賞経済産業大臣賞受賞
ワークプレイスコンセプトの“besign”は「be(なりたい)」と「design(デザインする)」を組み合わせた造語です。社員が自分のなりたい姿を描き、主体的に成長できる環境づくりを目指しています。
ワークスタイルコンセプトは
・共創し新たなイノベーションを生む
・プロフェショナルとして行動する
・固定観念を打破し多様化を受け入れる
3年間にわたり全社を巻き込んだワークスタイル変革とワークプレイス構築
従業員の意見を新本社に反映できるよう、オフィスづくりの全てのフェーズで従業員を巻き込んだワークショップや、参考となるオフィス見学ツアーを実施し、移転前に全社ABW,紙文書の断捨離キャンペーンを実施しています。本社移転準備段階では従業員のチェンジマネジメント(意識改革)を支援しています。
▼画像参照元

■事例4:ミズノイノベーションセンター
オフィスコンセプト:「NEWEST FUN=スポーツの楽しさをすべての起点に」
受賞:2023年ニューオフィス推進賞
スポーツが持つ「楽しさ=FUN」を起点とし、新しい製品やサービスを生み出す発想の拠点として設計されました。
オフィスは「楽しさ」や「遊び心」が体感できる場となっており、スニーカーやスポーツ器具に囲まれた試作エリア、社員が実際に運動できるジムを配置しています。
オフィスづくりのプロセスではワークショップで社員の想いをまとめ、働き方と建築設計の共創を行っています。オープン前からは社員への浸透活動をすすめスムーズな運用ができるようになっており、オフィス改善の体制も構築しています。
▼画像参照元

働き方変革を重視したオフィスの共通要素と特徴
これらの事例から見えてくる、「働き方変革」を前提としたオフィスづくりの共通項は以下の3点に集約されます。
1. コンセプトは「空間」ではなく「行動や文化」から出発する
タケダグローバル本社やエスユーエス、兼松東京本社、ミズノイノベーションセンターの事例にあるように、オフィスづくりはもはや“デザイン先行”ではありません。まず企業としての働き方の価値観や、従業員に求める行動・文化を明確に定義し、それに沿って空間を設計していくアプローチが主流になりつつあります。
2. 自律的な働き方を前提とした設計
ABWや多様なワークエリアの導入は、単なる利便性ではなく、「誰がどこで働くか」を従業員自身が判断する文化をつくるための手段です。自律的な行動をうながすしくみと設計が、組織の柔軟性や創造性を引き出す原動力となります。
3. オフィスは“変化する”前提でつくる
働き方の潮流は常に変化しています。だからこそ、オフィスも「完成形」ではなく、「進化する空間」であるべきです。柔軟にレイアウト変更できる家具の採用や、利用者の声を反映してアップデートし続ける運用体制の構築が重要になります。
おわりに:オフィスは“働き方の意思表明”の場です
オフィスは企業の「働き方」に対する意思を社会と従業員に示す象徴的な存在です。
単に居心地がよくおしゃれな空間を作ることが目的ではありません。企業がどんな価値観を大切にして、どのような働き方を実現したいのか。それを体現し、行動を後押しするための「ツール」として、オフィスを再定義することがますます必要となっています。
働く環境の整備を担うみなさまには、ぜひこのような視点を取り入れ。「空間のデザイン」から「働き方のデザイン」へと、一歩先を見据えたオフィスづくりを進めていただければと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
| 参考情報 | ◆参考リンク
日経ニューオフィス賞受賞オフィス紹介 2024年度 第37回日経ニューオフィス賞 2023年度 第36回日経ニューオフィス賞 ◆参考書籍 THE BEST OF NEW OFFICE 2023 (発行:一般社団法人ニューオフィス推進協会) THE BEST OF NEW OFFICE 2024 (発行:一般社団法人ニューオフィス推進協会) |
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一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。
水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
一色先生
ライタープロフィール
コクヨに42年間オフィスデザイナーとして勤務。オフィスデザインだけでなくオフィス研究やオフィス運営維持活動も担当。オフィスやカイゼンに関する講演は全国で50回以上実施している。2019年にはデザインスタジオを開業。オフィスのコンセプトづくりやコンペ提案のアドバイスを対応。 水彩画家として個展やカルチャースクールの絵画講師、公募展への応募なども行っている。2020年には初出品した水彩画が日展入選。はやくスケッチ旅行を再開したい。
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