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ライター:マーシー

2021.03.26

「3つの脱」で退路を断ったDX注目企業~ウイングアーク1st の改革最前線~

企業向けソフトウェアを開発販売するウイングアーク1st株式会社。同社の事業は、請求書や伝票などを効率化する帳票ソフトと、企業が持つ様々なデータを分析・見える化して経営や業務に役立てるBI(ビジネスインテリジェンス)ソフトが2本柱です。帳票ソフトに関しては、大手企業や官公庁を中心に多くの企業・団体に導入されており、国内シェア7割(シェア1位)の実績を誇ります。

同社は、「3つの脱」を掲げて、コロナでビジネス環境が激変する中を、極めてポジティブに泳ぎ切ろうとしています。

さてその「3つの脱」とは・・・

1) "脱" オフィス化。約1,000坪の執務エリアを撤廃
もともと2フロア、約1,500坪あった執務エリアの2/3を返却。残りの約500坪をコラボレーションや商談、フリーアドレスの作業スペースなどに活用することに。

2) "脱" ハンコ化/ペーパーレス化
99%相当の24.8万枚分のペーパーレス化を達成。電子契約導入により、契約の約40%が電子契約に移行。脱ハンコ・脱ペーパーレス化に成功。

3)"脱" 出社。新卒採用、研修までフルリモート化
オフラインで実施していた会社説明会、面接をオンライン化内定式もオンラインで実施

2004年の創業後、着実に成長を遂げ、これらの「3つの脱」を成し遂げながら、今月3月に東証1部に上場した同社のオフィス戦略、そしてそれと表裏一体と言える働き方の戦略について、執行役員・人事組織文化担当者である吉田 善幸(よしだ よしゆき)さんに、お話をお伺いしました。

進まない旧来型の働き方からのシフトチェンジがコロナで急加速

―六本木グランドタワーの上層階に巨大なオフィスを構えていたウイングアーク1stが、新型コロナ(以下、コロナと表記)発生の時期を境に、大きな変化を遂げたとお聞きしました。

吉田さん(以下、敬称略):3年前の2018年に、渋谷から今の六本木のオフィスに移転しました。移転後からコロナ前までは、1.5フロア、合計1,500坪のオフィススペースを構えていました。

基本的な働き方は、「朝出社して仕事が終わったら家に帰る」を基本とする、いわゆる「レガシー型」。IT企業にしては特徴のある働き方とは言えない状態でしたが、それでも変化する時代の流れの中で、リモートワークに向けて、少しずつ準備を重ねていました。

2017年頃から、週に1日程度のリモートワークを試験運用。しかしそれは、育児や介護など、特段の理由のある社員を対象にしたごく限定的なものでした。

そこから徐々にリモートワークの割合が増えていきます。世の中の働き方改革の波に乗り、2019年頃には社内で一定の定着を見せはじめますが、それでも働く側のマインドが依然「レガシー型」のまま。部門長によっては、「朝リアルな場で顔を合わせて部門内でミーティングを持ち、そこから1日の業務がスタート」という旧来型リーダーシップから離れられないケースも少なくなく、会社としては、それらの部門長を一掃するというところまで腹を決めてリモートワークシフトを実施していたかと言えば、必ずしもそうとは言えない状態でした。

2019年に入ると、1年後に控えた東京オリンピック・パラリンピックに備える形で、東京近郊でのテレワークのニーズが一気に高まります。2020年の夏に、開催の影響で公共交通機関が大きく乱れるという予測が盛んに取りざたされ、我々もそこで一気にやってみようとなりました。

2020年1月、実際に本格的なリモートワークに移行した場合に、自社のインフラや人の動きがそれに耐えられるかを検証する「パイロット・キャパシティ・テスト」を実施し、完全移行に備えて準備を進めていたところに、コロナがやってきました。

これまでのリモートワークの取り組み

リモートワークでできないことは少ない、と経営陣が認識

―改革のタイミングが非常に良かった。

吉田: そうとも言えますね。2020年1月末に「在宅推奨」。2月末には「原則在宅」に。そして3月末には「原則リモート」となった。4月以降は、緊急事態宣言も全国で発令されましたので、よほどのことがなければ会社には来るな、ということになったわけです。

その後、4月・5月と在宅での仕事を続けてみた結果、「リモートワークでできないことはあまりない」という認識が、マネジメントを中心に共有されていきます。

社員に対しても、エンゲージメントサーベイを実施。これだけフルリモートに急速に変わると、労働環境的にはものすごく大きな変化になるわけですので、働く上でのモラルやエンゲージメント(※)がどう変わるか、大変心配したのですが、結果は、下がるどころか逆に上がったのです。

エンゲージメント:会社に対する「愛着心」や「思い入れ」、さらには「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係」を指す(日本の人事部より)

社員からのフィードバックでは、「他社がリモートにシフトする随分前のタイミングで、会社が先手先手で、メンバーの安全確保のために、迅速に対応してくれた」という声が非常に多かった。この手のサーベイは、あまり会社のことを褒めてもらえないものなのですが(笑)、とてもポジティブなコメントが多く見られました。同時に、1,500坪のオフィスに皆来なくなった変化を見て、「これから空いたオフィスをどう活用するのですか?」という心配の声が、多数の社員から上がってくる状況になります。

コロナ後も後戻りしないという強い決意

―全社を巻き込む変革の下地が十分にできてきていたと。

吉田: そうですね。元々、35階の執務エリア(1,000坪)と、36階のコラボレーション・応接・セミナー用のエリア(500坪)の計1,500坪あったオフィスの35階をまるまる1フロア返却し、残った36階の500坪のスペースに必要な機能を集約する計画を2020年4月に立て、6月には経営陣で実施する方向で決断をします。将来コロナが収束しても、元の働き方には戻さないという決断が腹落ちした後は、非常にスピード感をもってやってきました。 使わないオフィスを遊ばせておくのはもったいない、という当たり前の感覚を社員も持ってくれていた。リモートの良さとチャレンジの両面ありましたが、総論的には通勤時間がなくなったなど、働き方をポジティブに受け取る社員が多かったということだと思います。

新36階オフィス仕様(500坪)

新たな世界でアウトプットが出せない人は去るしかない

―コロナの影響に背中を押されたとは言え、相当大きな変化ですね。現状と課題についてお聞かせください。

吉田: これだけ大胆に「3つの脱」を実施しても、短期的には、大きなトラブル・会社の経営に影響がでるようなことは起きていません。

ただし、細かいところでは、新入社員のオンボード(新規採用人材の受け入れプロセス)を、デジタルの世界でどう手厚く対処するのか、自分と同じ部門以外のネットワーキングをどうするのかが課題です。ただ、これに対する打ち手はそんなに難しくなく、デジタルで情報量を増やしていくことが鍵だと捉えています。

新人のオンボードについては、ナレッジ・マネジメントシステムやラーニング・マネジメントシステム(インターネットを通じて、Eラーニングを配信するプラットフォーム)を活用することで、情報の鮮度や公平性を担保すれば、解決ができると信じています。

レガシー型の上司は、部下の業務進捗を管理し、自部門の業績を最大化することに全力を注いでいました。これからは、自分の部下のモチベーションやエンゲージメントをどう維持していくか。新人が入ってきたらバーチャルの飲み会をやる、他部門のバーチャルの飲み会に自部門の新人社員を連れていって紹介してあげる、など。それが新たな環境下での上司の仕事となる。そうした短期的な打ち手を見どんどん打っていく。

中長期的に言うと、我々もリモートシフトしたので、管理職の役割が変わります。業務管理しようとしても、隣に部下はいない。裁量に任せて、アウトプットを自発的に促すことしかできない。今日なにやる?明日なにやる?という管理をする管理職の価値がどんどん薄れていく。リーダーシップの中身が変わってくる

一方でこれは、社員にとっても同じです。何時に仕事を始めて何時に終わらせるかは本人の裁量。でもそれを会社は管理できない。なので、アウトプットで評価するしかない

こうした労働環境の中で、アウトプットが出せる人と出せない人の差がついてくる。顔を合わせていないと仕事をしている気がしないようなタイプの人がデジタルシフトできなければ、別の職場を選ばざるをえない。少ないコントロールの中でアウトプットが出せない人、すぐに自走ができない人は、今のやり方に合わない。そうなると、去っていただくしかない。それが、中長期的な我々の課題です。

脱オフィス後も「人間としてのハイタッチの場」は残したい

―“脱”オフィスとは言え、約500坪はコラボレーションの場所として残すという意思決定をされました。思い切ってゼロオフィスにする、という選択肢もあったのではないかと思いますが、それでも一定面積を残した理由は何でしょうか?

吉田: 自分一人だけで完結し、孤独なリモートワーク環境の中でもアウトプットが落ちない、逆に上がる仕事がある。一方で、リアルな場に集まって、議論思考を重ねて生み出す価値というものもあります。後者は、バーチャルな会議の場では出てこない相手の顔色や熱量、吐く息、ため息を共有した上で生み出されるものが確実にあります。そうしたもののために、場合によっては残した(500坪の)オフィスではなく、オフサイトとして合宿をする必要があるかもしれない。

田中(社長)がよく言っているのは、『会社に来ないでと言っているが、コロナが収まれば週に1回とか2回とか、部門ごとに調整して出社してみてください』ということです。それを田中は、「スペシャルな場」と呼んでいる。そこでは、「久しぶりだね、元気?」「ちょっと痩せたね」「ちゃんと生きてる?(笑)」、といった会話が自然と出る。それは人間としてのハイタッチの場。活力を向上できる場です。これからの新しい時代には、そんなふうにオフィスを活用していって欲しい。経営陣はそういう願いを抱いています。

「レガシー型上司」と「デジタル・ネイティブ部下」との価値観合わせ

―価値観が、コロナ前と後で大きく変わった。

吉田: そのとおりです。例えばリアルのミーティングを依頼する時は、それなりの価値がないとだめ、ということになるのではないでしょうか。価値が低いと見なされれば、「それってバーチャルでもできるんじゃないの?」と、バーチャルを愛するメンバーからは指摘されるでしょう。「わざわざオフィスに行く必要ありますか?」と。

また、ライブ(実際に顔と顔を合わせること)が大好きなマネージャーもいます。コロナが少し落ち着いた昨年秋頃に、「とにかく毎朝9時にオフィスに集まろう」、という取り組みもありましたが、若手からは反対意見が。

レガシー型アナログ上司の下にデジタル・ネイティブの部下がいると、この上司とはもう面倒くさくてやっていけないとなる。こういう価値観合わせの作業が、中長期的に極めて重要になってくると感じています。

創業以来のビジネスチャンスを活かす新たな1年に

―よく理解できました。最後に、今後のチャレンジについてお聞かせください。

吉田: 私たち自身がDXカンパニーであるという点を強く意識しています。脱ペーパーを自社で成し遂げて、お客様に興味を持っていただく。

コロナで従来の働き方ができなくなるのは、社会的には大きなハンディキャップですが、自社のビジネス上は物凄い追い風。国もデジタル庁を作ってDX化の旗振り役をする。我々の創業以来のビジネスチャンスがやってきています。3月の上場が成功裏に終われば、会社が大きくなれる非常に大きなターニングポイントになると確信しています。

我々としては、レガシーワークから急激にワークシフトして効率が上がり、社員のエンゲージメントも上がり、出力も大きく上げた、という成功事例になればなと。様々なチャレンジ、課題がある中で、あくまでもリモートワークを主とし、そこにたまに起きる濃密なオンサイトのコミュニケーションをミックスし、非常に質の高いコミュニケーションと社員のコミットメントを得られている状態を実現できている会社になりたいです。これから1年後に、「昨年の今頃、吉田はこんなこと言ってたけど、1年でここまで来ましたよ」というお話ができるようにしたいです。

執行役員・人事組織文化担当者である吉田さん

編集後記

吉田さんのお話から見えてきたこと。それは、ウイングアーク1stが試行錯誤しながら前に進もうとするプロセスは、まさに今、日本の多くの企業が直面している課題そのものである、という点です。レガシーワークとの決別をしつつも、体温が感じられる場はこれからも温存する。大切なのは、そのバランスなのでしょう。コロナによって背中を押され、その勢いを借りてこれまでなかなか超えられなかった壁を一気に超える。それができるチャンスは、まだまだ残されているということを教えていただきました。ウイングアーク1stのこの先1年の革新から片時も目が離せません。

INFORMATIONウイングアーク1st株式会社 https://www.wingarc.com/company/data.html

*同社記事ご紹介
ウイングアーク1st、きょう東証1部上場 企業向けソフトウエア【時事通信】
ウイングアーク田中社長「帳票ソフト好調 配当性向3割」【日経新聞】
お話しを伺った方吉田 善幸(よしだ よしゆき)
執行役員(人事・組織文化担当)

<プロフィール>
大学卒業後、本田技研工業に入社。その後、外資系企業を中心に主に人事分野でのキャリアと実績を重ね、アディダスジャパン、Googleなどで人事トップを歴任。
QVCジャパンで人事部門バイスプレジデントを務めた後、2017年7月にウイングアーク1 s t 執行役員人事・組織文化担当 兼 People Success部部長に就任。
現在は、同社執行役員人事・組織文化担当 兼 Wellness推進室 室長。
マーシー

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ライタープロフィール

2019年入社。金融・不動産・製薬などで総務業務に長年従事。オフィス好きが高じて、プライベートでも独自のオフィスツアーを企画するなど、オフィス訪問がライフワークとなっている。週末などに非営利分野の活動も精力的にこなしている。強くないのにお酒好き(焼酎派)。

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