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ライター:マーシー

2020.04.01

【特別緊急企画】新型コロナウイルス問題が私たちの「働き方」に及ぼす影響とは~年初からこれまでの社会の対応を振り返る~

新型コロナウイルスによる社会的な影響は、週を追うごとに、拡大しつつあるように見えます。移動の自粛要請などが広がる中、人々の働き方そのものが、急速に変化しつつあります。 この問題が取りざたされる随分前から、働き方改革、中でも、テレワークの重要性を唱え続けてこられた、総務省の箕浦龍一さん(行政評価局総務課長)に、今回の問題が日本人の「働き方」に及ぼす影響と、今後の課題についてお聞きしました。

―今回の新型コロナウイルスの問題で、省庁の中で、何か課題は出ていますか?

私たちのオフィスは、東京の霞が関にあるので、一番心配だったのは、ラッシュ時の通勤でした。そのため、かなり早い段階から、時差通勤やテレワークを呼び掛けていまして、今も半分以上の職員は、テレワークか時差通勤でピークを避けて出勤するようにしています。

業務の関係でいうと、我々は行政相談というものを行っており、ボランティアで行政相談委員という方々にご協力をお願いしています。(※行政相談は、一般の国民の方からの行政にかかわる相談諸々。新型コロナに関するご相談もある)相談委員の方にはご高齢の方も多いので、できる限り、対面の相談ではなく、ホームページの情報をご覧いただく、または電話やオンラインで、お互いにリスクが少ない形での対応ができるように心がけています。

―総務省は、これまで、テレワークを霞ヶ関の官公庁としてはトップの水準で推奨してきたお立場だと思いますが、今回の新型コロナ問題による通勤・出張制限についても、省内の対策はスムーズに進んでいるのでしょうか?

実はそれほど威張ったことが言える状況ではなく、まだまだ通勤が当たり前と思っている職員が多いです。それでも、リモートワークが可能な環境は整っていますので、テレワークを実施している職員も相当数います。また、業務上、壁にぶち当たったのは、一般の方向けに研修・セミナーを行うことがあるのですが、その際に、オンライン対応の準備が十分にできておらず、結果、中止という判断にならざるを得ませんでした。Zoomなどのオンライン会議は、現状の総務省のセキュリティ事情では難しく、そこが今後の課題となっています。

―組織や企業側での課題について、どう思われますか?

新型コロナ問題が報道で取り上げられ始めた年明けから2月くらいまで、通勤電車の満員の混雑ぶりに、特に目立って変化がなかったように感じていました。感染症のリスクが目の前に迫っているのに、速やかに対処できなかった組織や企業が多かったのではないかと。

ここに来て、学校が閉鎖されたり、行動の自粛が急速に進んだりする中で、ようやく企業側も、遅ればせながら、テレワークへの対応が遅れていた部分を改めて見直す動きになっているように思います。そうした動きは、今後さらに脅威の強い感染症のリスクが生じたときに向けて、大事なことであろうと思います。

今回の新型コロナが、仮にもっと感染率・致死率が高かった場合、あの満員電車で通勤していた方々は、場合によっては命を落としていたかもしれないわけです。そう考えると、あの満員電車の状態が継続していたというのは、実効性のあるBCP(事業継続計画)になっていなかったことを意味するわけで、今回の経緯は、それを見直す機会になるでしょう。何らかのリスクが発生した際に、速やかにリモートも含めた勤務体制に移れることの重要性を、日本社会全体として気づけたのではないかと思います。

―テレワークが容易に適用されない業態や職種についてはどう思われますか?

製造業や接客業の方々などは、通勤前提となっていますが、そういった業態についても、パンデミックがもっとひどい状況になり、本格的な移動制限がかかってしまった際に、ビジネスがそこで止まってしまわざるを得ない状況になる。そうした危機的な想定も、今後考えていかなければならないわけです。そうした業態についても、今後、テクノロジーを活用してどう乗り越えていく必要があるのか、という点も、今後の課題だと思います。また、公教育という世界の中で、学校が閉鎖された際に、お子さんたちにとっての、学びの機会をどう継続的に提供していくかどうかという点も課題です。

―今回の年明け以降の流れを振り返って、社会としてはどのタイミングで、移動制限、つまりテレワークなどを含めたBCPの発動を行うべきだったのでしょうか?

個人的な見解として申し上げると、和歌山県で今年の2月13日に、国内感染の初事例が確認されました。男性医師の方でしたね。それと同時期に、都内のタクシー運転手の方も、感染が確認されています。あの時が、日本国内での感染の広がりの動きが具体的に確認された最初のタイミングだったように思います。そのため、対応可能な環境が有りさえすれば、その時点でテレワークに踏み切るというのが、合理的な判断だったように思います。すぐさま一斉に全社テレワークを導入するかどうかはともかく、そのタイミングで、一番ピーク時の通勤を避けさせる判断というのは、経営者として必要だったように思います。

一方で、政府側の対応が遅くなったのは、テレワークの導入率が、日本全体でまだまだ2割強しかない状況があり、あまりにも早いタイミングで政府から何らかの指針を出すことは、経済活動への混乱が予想されるため、政府は表現などをかなり慎重に選びながら、これまで対応してきたように感じています。

―企業としての責任という点で、もう少し詳しくお話をお聞かせください。

水際対策などについては、国の責任というところはもちろんありますが、実際のリスク判断やリスク回避については、経営の主体的な判断として必要であると思います。

今回の動きは、自分自身の感染を防止するという側面と、周囲に感染を蔓延させることを防止するという側面の、2つがあったように思います。今回、実際に感染した場合にリスクが高い人たちへの感染を社会的に防いでいく、という側面が大きいのではないかと。そのため、BCPという側面以外にも、社会貢献的な意味合いで、企業としてもう少し早めの判断があって良かったのかなと思います。

―今回、他の省庁の動きはいかがでしょうか。

政府としては、各省庁に対し、可能な限り、テレワークや時差出勤が推奨してきていますので、多くの省庁では、それらが実施されているように思います。今回の新型コロナ対策にかかわる担当者も多数おり、土日も含めて、対応を行う職員もいます。そうした方々は、自宅からのテレワークを行っている職員が多数います。

―これまでテレワークや時差通勤の普及に努めてこられた政府職員のお立場として、民間で働く方々に向けてのメッセージをお願いします。

業務の中身によっては、リモートは直ちには難しいという状況があるのは事実だと思いますが、オフィスワークの事務を行う業務内容を前提に考えると、このタイミングでテレワークの環境が全く整っていないというのは、これはもう経営者の怠慢としか言いようがないです。

働き方改革の件で企業様とお話をする際にも、オフィス環境をアップデートする、リモートワーク環境を整えるというような取り組みは、もうベース(大前提)として考えていただく必要があります。その取り組み自体は、もはや働き方「改革」とすら言う価値が無く、単なる平成・令和標準へのアップデートに過ぎないということです。リモートで働けるような環境がないこと自体が今はもう考えられないわけで。例えば、東京から大阪に出張に行って、リモートで働ける環境がない場合に、その社員が新幹線で酒とおつまみを買い、ほろ酔いで帰ってくるので本当に良いのですか?社長さん、というようなお話なのです。実際には、会社としてのテレワークの整備がなされていなくても、個人のスマホやタブレットを使って、新幹線などでお仕事をされているわけです。それをきちっと組織として、どのように対応していくのか、というのは、そもそもベースとして考えておかないといけない話だったわけです。そのため、これを機会に、テレワークとの向き合い方について、改めて考えていただきたいです。また、現実には、テレワークに馴染みにくいと考えられている業種・職種についても、さまざまなテクノロジーを活用して、リモートの要素をどうやって組み込んでいくかということを改めて考える必要があると思います。

―これまでもテレワークを推進して来られた、そしてまだ導入ができていない人事総務担当者の方にしてみると、経営者の方に対して「だから前から言っていたじゃないですか」というお話になるかもしれません。そういう方向けに一言をお願いします。

いくら努力しても経営者の方にご判断いただけないという場合は、そうした経営者の方に、総務省にお越しいただくのが一番早いです(笑)。講演の中でも、そういうお話をよくさせていただいていました。「会社が変わらないのであれば、一度お話しますよ」と。

働き方改革も、人事や総務に丸投げであれば、改革なんてできっこないです。今回のリモートの導入などは、経営の問題だと思います。その点を、情報システム部門に丸投げしていたり、人事部門もよろしくね、と言いっぱなしだったりの経営者の方は、経営していないのと同じだと思います。

もう一つは、テレワーク導入や、これまでの働き方改革の文脈でのオフィス改革も含めて、人事や総務、情報システム部門というのは、どうしても縦割りで動く組織が多いように思いますが、やはり、この三者が一体となって取り組んでいただくのは、改革がうまくいく必須条件かと思います。そこを踏まえて、全社的に巻き込んだ体制を考えていただくのが必要不可欠であると思います。 そのあたりをもう一度、今回の対応を機に、話し合っていただくことをお奨めします。

        *       *       *

テレワークは、今のこの新型コロナ問題などで価値が最大限に発揮されるBCP(事業継続計画)だった。そして、年初からこれまでの動きを教訓に捉えて、この後の動きに活かしていく。学びが非常に多い、年初からの数か月を経た今、企業として、やるべきことがクリアになってきたと感じられる方も多いのではないでしょうか。箕浦さんからは、そんな示唆に富んだメッセージをいただくことができたと思います! (取材日:2020年3月13日)

プロフィール箕浦 龍一(みのうら・りゅいち) 
平成3年入省(総理府・総務庁)(現職 総務省行政評価局総務課長)

自らの職場でワークプレイス改革やワークスタイル変革、若手の人材育成に取り組む一方、本職以外でも、リモートワークを通じた地域活性化や関係人口創出のプロジェクトにも尽力。2019年11月の全国関係自治体によるワーケーション・アライアンス・ジャパンの設立に寄与。総務省で実践したオフィス改革は、人事院総裁省を受賞し両陛下に拝謁。 人材育成の分野では、省内だけでなく、小規模自治体との短期交換留学の実践や大学への出張講義などにも積極的に取り組んでいる。 軽井沢リゾート・テレワーク・プロジェクトや、食を通じて健康と医療を考える「フードメディシンネットワーク」のプロジェクト、金沢市の優れた経営者のコミュニティである「金沢イノベーション・ハブ研究会」にもオブ参加。2017年の日本行政学会では、「機動力の高いナポレオン型管理職」として紹介される。 全国各地での講演では、ICT革命によるパラダイム転換やサブスクリプションなどの価値観の変化、人生百年時代の社会像の変化の下で、我が国の国際競争力を回復するには新たな「世界観」が必要であると訴えている。
マーシー

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ライタープロフィール

2019年入社。金融・不動産・製薬などで総務業務に長年従事。オフィス好きが高じて、プライベートでも独自のオフィスツアーを企画するなど、オフィス訪問がライフワークとなっている。週末などに非営利分野の活動も精力的にこなしている。強くないのにお酒好き(焼酎派)。

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