2012.04.11
2011年12月、原宿にある築48年の独身寮がショップ・オフィス・アパートメントの複合施設「THE SHARE」として生まれ変わった。
今、話題のシェア型の施設である上、原宿という好立地も影響してオープン前から注目を集め、現在ではほぼ満室状態と聞く。
地上6Fの建物で、1Fにショップ、2Fにオフィス、3~5Fがアパートメント、6Fは主に入居者専用の共用部になっており、「Simple Vintage」というデザインコンセプトの下、味わい深いファサードや空間がつくられている。
今回ご紹介する森尻氏は、このリノペーションプロジェクトの責任者であり、オープン後の現在も運営面の取り纏めを行っている。
森尻氏の所属する株式会社リビタでは、リノベーションによる既存建物再生の企画・設計や竣工後のリーシングに加え、入居者同士のコミュニティ形成と活性化に力を入れている。
今回は、今話題となっている「the Share」を中心に、同社の考えるコミュニティ形成を促進する空間づくりについて森尻氏にお話を伺った。
■「the Share」 http://www.the-share.jp/
■株式会社リビタ http:// www.rebita.co.jp
コミュニティ形成に注力したリノベーション
「私たちは、既存建物の特性や市場動向を考慮して、リノベーションによる最適な再生方法を提案しています。物件によって、ただリノベーションするだけではなく、その後の賃貸管理、運営、サブリースまで一括して行う場合もあります。
リノベーションといっても、弊社では建物の外観や内装のデザインはもちろん、入居者同士のコミュニティ形成や活性化に力を入れており、それを実現するための空間づくりを心掛けています。
そのため、弊社では建物の企画・設計やリーシングに加え、コミュニティ運営を担当するグループを設置しており、建築、不動産、コミュニティデザインなど専門性を持ったスタッフがチームを組みプロジェクトを進めていきます。」
1フロア分の共用ラウンジを設置した複合施設
「今回の「THE SHARE」も、現在の物件オーナー様から借り上げ、全面リニューアルに踏み出しました。原宿という好立地から、宿泊施設や商業施設への用途変更も考えられますが、現状用途が寄宿舎であり、法律の関係上、床面積の1/3以上を住居以外の用途へ変更することが難しかったため、1Fをショップ、2Fを事務所、3F以上を住居とした複合施設に決定しました。
そういった制約の中で結果的に複合施設にはなりましたが、ただ、分けた用途の中で個別に貸していくのではなく、どのようにこの物件の付加価値を高めていくかを考えていく中で、6Fを入居者が交流を図れる様な共用ラウンジとしました。
1フロアまるごと共用スペースとするのは、一般的な不動産企業なかなかやらないことですが、弊社では、入居者の快適性や充実性を重視しており今回のような計画に踏み切りました。」
共用スペースを通して入居者の交流を促進
「共用スペースの内装についても、一様な空間ではなく、一つの広い空間の中に、オープンな場所からプライベートな場所までを連続的かつ段階的につくっており、それぞれの利用者がその時の気分や目的に合わせて場所を選んで活動ができるようになっています。
また、屋上も「コミュニティガーデン」という名称で共用スペースとして開放しています。
そういった共用スペースを通して、他の入居者やその知人等へのつながりが広がっていけば良いなと思います。例えば入居者同士の間でビジネスが生まれるとか、パートナーとして一緒に仕事をするなどの展開も期待しています。
そのために、入居時に交流のきっかけ作りの意味も含めて弊社で企画して交流会やイベントを開催し、入居者同士が繋がるきっかけも提供しています。」
経験や知識もシェア出来る
「そういった活動もあり、「THE SHARE」では早速入居者の間で“カメラ部”や“ランニング部”など、サークルが出来ているようです。そういった交流を通して、共用スペースのシェアのみに止まらず、入居者同士がそれぞれの経験や知識、スキル等の目に見えない“こと・もの”も共有できるような場所になっていけばと思います。
ただし、入居者間のコミュニティを促進する一方で、プライバシーを確保し、適度な距離感を保つことも大切だと思っています。
そのバランスを上手くとっていくことで、より入居者の満足度の高い物件になっていくと思っています。」
理想は“原宿セントラルアパートメント”
「シェア型施設が世間的に注目を集めていることもあり、当初の予定よりも入居の状況は好調で、入居者のコミュニケーションも想像以上に積極的に行われている印象です。
私自身、入居者の方々と話していても個人的にとても魅力的な方々ばかりだと感じています。交流を促進するといっても、運営側が一方的に強要したところで良いコミュニケーションが生まれるものではありません。そういった意味でも「THE SHARE」は入居者にも恵まれたなと思っています。
今後も更にコミュニティづくりを活性化していきたいと思っています。そのために、イベントの開催も定期的に行っていくことと、何よりも、実際に現場に出向いて入居者の方々との交流を欠かさず、要望や不満を吸い上げて運営に反映していくという活動を継続して行きたいと思っています。
そして、長期的な理想としては、糸井重里さんやみうらじゅんさん等後の有名クリエイターを排出した “原宿セントラルアパートメント”のような存在に出来たらと思っています。」
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今回のインタビューを経て改めて思ったことは、「良い空間には目に見えない部分までつくり手の想いが込められている」ということである。
「THE SHARE」については、建物自体のデザインやシェア型といった形態も魅力的で多方面のメディアに取り上げられているが、この建物の本当の魅力はそういった表面的な部分だけではない。
何よりも注目したいのは、つくり手として、入居者がいかに快適なワーク&ライフスタイルを実現できるかということを真剣に考えていることであり、その想いが空間の細部のつくりや、イベント等の交流促進施策に反映されている。
また、「管理者として、頻度高く入居者と直接の交流を持つことが大切」という森尻氏は、「THE SHARE」を含め、自らの担当物件内で開催されるイベントに参加し、入居者の声を聞く機会を積極的につくっている。
その様に、一見すると建物のつくり手または管理・運営者の仕事には思えない部分が、現代においては、入居者を惹きつけ、長く利用してもらうための要因となっているのではないかと感じる。ただ、スペース効率だけを考えたビルや空間のつくり方ではなく、前提として、そこで繰り広げられる利用者の活動を思い描く必要があるのだろう。
その様な考えを持ったつくり手が増えてきている今、街がどのように変わっていくのか非常に楽しみである。
プロフィール | 森尻 謙一
株式会社リビタ 常務取締役 コンサルティング事業本部長 |
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