皆さんは「Coworkinng」という言葉をご存知だろうか。
様々な業種の個人事業者や小規模企業が、オフィスを共同でシェアし、共に働くことで、様々なコラボレーションや新規事業の創出していくことを目的とした米国発の新しい形のワークスタイルである。
　現在、日本でも徐々にこの働き方が注目を集めており、「Coworking」専用のスペースなども各所に開設され始めている。そういった「Coworking」の日本での普及の一躍を担うのが松田氏である。
　同氏が代表を務める有限会社ワンダーウォールでは、多様化するビジネスマンのワークスタイルをサポートすべく、個人事業者や中小企業への「クラウド導入サービス」を行うと共に、2010年8月から「Coworking事業」を開始し、日本への普及活動を通してワーカー同士のコラボレーション支援を行っている。
　　今回はそんな松田氏の活動に迫ると共に、日本における「Coworking」の現状と可能性についてもお話を伺った。

■ 有限会社ワンダーウォール
http://www.wonderwall.jp/

在庫管理からネットビジネスへ

「元々大学で生産管理やオペレーションリサーチに関して学んでいたこともあり、卒業後はHMVに新卒で入社をして、店舗の在庫管理システム導入プロジェクトに携わりました。その頃、ちょうどPCが世の中に広まり始めた頃で、HMVでも、今でこそ定番になっているネットショッピングサイトを正に立ち上げようかという時期で、全国の店舗が対象に一週間おきに日本各地を泊まり歩いて、各店舗の在庫状況を確認し、システム内にデータとして登録をしていくというような業務をしていました。そういう中で、当時まだ目新しかったインターネットビジネスに興味を持ち始め、システム開発を行なう会社に転職し、ゼロからWEBやプログラミングについて学び始めました。」

顧客に近い立場で仕事がしたい

「そしてその1年後には独立を果たし、WEBサイトの構築やシステム開発のためのプログラミングを個人で行なっていました。当初はBtoCで個人向けにWEBサイトの構築を行う仕事が大半を占めていましたが、インターネットの普及と共に企業でもコンピューターシステムを使ったデジタル環境で組織の管理のニーズが高まり、BtoBでのシステム開発の仕事が増えていきました。

　しかし、その中で、私自身が課題として感じ始めたのは、自分のつくったサイトやシステムがお客様の望んでいるものとは別のものになってしまっているということでした。当時プログラマーであった私とお客様の間には、常にサイトの設計をする立場の人がいて、私はその人の指示に従ってサイトを構築するのが私の仕事だったので、その設計段階でお客様のニーズをうまく反映出来ていなければ、私がいくら頑張っても意味がありませんでした。
　そういった背景もあり、お客様により近い立場で仕事をすることの必要性を感じ、現在行なっているコンサルティングというかたちで、お客様の問題点や欲求を一緒に考えるところから、その解決策を形にするところまで業務範囲を広げてきました。」

小規模企業の力になりたい

「更にインターネット普及し、PCも高度化を続ける中で、これまで大きな資金を掛けられる大企業にしか出来なかったようなアウトプットが小規模の企業さらには個人でも簡単に実現できるようになってきました。
そういった時代背景を受けて、小規模企業や個人事業者にとってより働きやすい環境を整えてあげたいと感じるようになり、現在の主業務である「クラウド導入支援サービス」に至りました。クラウドはシステム単位の課金ではなく、個人単位の課金制で成り立っている為、導入の負担という面でも大企業と個人に差がありません。そういった意味でも、クラウドは個人事業者や数人規模の会社が使ってこそより大きな価値を発揮すると考え、小規模企業向けに導入、運用の支援を行なっています。」

偶然が重なり「Coworking事業」を開始 　「そんな思いで業務を続ける中で、偶然出会ったある方のブログに感銘を受け、「Coworking事業」を開始することにしました。そのブログでは、当時、日本ではまだほとんど認知されていなかった「Coworking」について語られており、更には、神戸に専用のスペースを開設したいというような内容が書かれていて、個人事業者や小規模企業を支援するという意味で自社との共通性を感じ、とても興味を惹かれました。それからは「Coworking」をもっと日本で広めていこうと考え、自身でも「Coworking-jp」というブログを開設して海外の事例紹介や日本での現状などを綴り始めました。 　ブログを始めて間もなく、株式会社旅と平和という会社が、東京都世田谷区経堂に「PAX Coworking」というCoworkingスペースをオープンするというプレスリリースを発見し、偶然にも自宅からすぐ近く出会ったこともあり、すぐにこの会社へ連絡してコンタクトを取り、「PAX Coworking」オープンのタイミングに合わせてサイトの作成を始め、ブログの運営やイベントの開催等のプロモーションを戦略面から支援をすべく、会社として「Coworking事業」を開始しました。」

「Coworking」をもっと多くの人に知って欲しい

　「今、ノマドワークというワードが流行し、場所を選ばず個人で業務を行う人が増えていますが、そういう人達にとって、他の人とのコラボレーションを生みだすことが出来る場として、Coworkingスペースはとても有意義なのではないかと思います。そしてその価値をより一層高めて行く為にも、まずは、「Coworking」自体をもっと普及させ、多くの人達にそういった働き方を取り入れてもらうことにより、いつでもどこでもコラボレーションが実現するような環境が整えられたらと思っています。

　現在「Coworking」普及の一環として、「Coworking」を体験できるイベント「Jelly」を積極的に開催しています。「Coworking」自体、場所や物に縛られるものではなく、人と人とのコミュニケーションで成り立つものであるため、開催場所も様々で、「PAX Coworking」を使ってプレゼン大会を行なうこともあれば、本当に何もない公園に集まって写真撮影を行なったりしてます。参加者も毎回20名前後集まっていただき、草の根的な活動ではありますが、着実に「Coworking」が広がってきていることと、その有益性を感じることが出来ています。」

小規模企業に向けたサービスを拡大していきたい

　「クラウドによる生産性の向上により、ひとりが処理できる業務が大幅に拡がり、個人もしくは小規模の企業が増加しつつあり、また「Coworking」というムーブメントに代表されるように、働く時間やスタイルにも多くのバリエーションが生まれつつあります。そして今後は、更にこの傾向が強まるのではないかと考えています。
　その中で、これまでも行ってきた、この「クラウド」と「Coworking」を大きな二つの柱として、更に事業を成長・拡大していけたらと考えています。
　「クラウド」という面に関しては、多くの人にとって不便でわかりにくかったDNS管理をよりポップなビジュアルと噛み砕いた文章で表現した「Dozens」というサイトを2010年10月にオープンし、クラウドのビジネス活用をサポートするためのプラットフォームを整備しています。
これに限らず、私の強みである開発力も活かしながら、様々なサービスを提供していけたらと考えています。」

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　「想い続けることが実を結ぶ。」
今回のインタビューを通して、松田氏のお話から強く感じたメッセージである。
「Coworking」事業を軌道に乗せることが出来た理由を、松田氏自身は“偶然”とか“運よく”という言葉で表現されているが、その偶然や運を導いたのは、正に「小規模企業への支援をしたい」という松田氏の信念とその実現に向けた地道とも言える活動の賜物だと感じた。
　昨今、ITの普及や高度化に伴って少人数での事業創出が可能となり、またビジネス自体の多様化も進む中、企業内だけでなく異分野・異業種の繋がりが重要性を増している。また、東日本大震災の影響により、場所に縛られない、より柔軟なワークスタイルへの変更を迫られるこの状況を加味すると、松田氏の手がける「Coworking」や「クラウド」関連の活動への注目はより一層高まっていくのではないかと感じている。
そして、そんな松田氏の活躍を今後も下支えしていくのは、これまでのコンサルティング業務のプログラミング業務を通して培った企画力や技術力だけではなく、やはり松田氏自身の根底にある“想い続ける力”なのだろうと私は思う。