ライター:セッキ―
2026.01.26
「働きやすさ推進室」。
そのユニークな部署の室長を務めるのは、永井美也子さん、たった一人です。
かつて同社は、組織診断の結果に経営陣が言葉を失うほどの厳しい現実に直面していました。そこから5年。永井さんは「辞める理由を知る側」から「辞めなくて済む環境をつくる側」になりたい、という長年の想いをかなえます。そして全国96人の社員全員に向き合う行動に出る――。
なぜ彼女はそこまで「対話」にこだわり、現場と経営の間をつなぐ「翻訳家」としての役割を担うようになったのか。 孤独な相談相手から、組織を変える橋渡し役へ。その原動力となった壮絶な過去と、相手の心を解きほぐす「伴走者」としての覚悟に迫ります。

――「働きやすさ推進室」とはわかりやすいネーミングですよね。ご入社されてから立ち上げまでの経緯について教えてください。
永井(以下、敬称略):前職は大手外食チェーンで、店舗のパート社員からスタートし、その後店長、SV、人事採用領域と経験してきました。働きづらさを理由に、不満を言いながら辞めていく人を多数見てきた中で「辞める理由を知るよりも、辞めなくてすむ環境をつくる側」へ行こう、と思ったんです。
それができる環境と思って当社へ入社したのが2018年9月。ですがまずは会社のことをよく知ってからと思い、女性初のマネジャーとして採用チームに携わることになりました。
当社の事業は営業支援ですから、「本社の社員」と家電量販店などで働く「現場スタッフ」の大きく二種類の従業員がいます。本社社員はもともと現場スタッフを経験している人が大半なので、採用活動のほとんどは現場スタッフが対象となります。
私が入社後1年ほどのとき、組織診断を実施したところ、ものすごく悪い数値が出てしまって……サーベイを提供する会社の人も驚くほどで、結果報告の場では当時の経営陣はかなり居心地が悪かったと思います。
――なるほど。それは確かにそうですよね。
永井:採用に携わったスタッフさんは現場、つまり全国各地にある店舗で活躍するので、直接顔色を見たり声をかけたりもできないため、不満や悩みがあっても見えづらいんですよね。店舗にときどき足を運んで遠くから様子をうかがうことくらいしかできず、歯がゆかったです。
そうこうしているうちにコロナ禍がやってきて、採用はSNSを活用し広報活動にも取り組みましたが、数年は最悪の状況が続きました。私のモチベーションも限界に近づいてきた2022年の終わりごろ、役員の一人から頼まれました。私が入社当時やりたかった、「働きやすさの追求」「辞めない環境づくり」に本腰を入れることになります。
――いよいよ、「働きやすさ推進室」の立ち上げですね。
全国7拠点、半年間で約100人の社員にインタビューを実施
永井:2023年3月、正式に「働きやすさ推進室」が立ち上がってからすぐ、一人ひとりと直接面談をしようと動き始めました。各拠点の長に連絡し、「一人90分、多めにみて120分ください」「そんなのムリですよ」「では1週間滞在しますから」とお願いして、なんとかして全員時間を作ってもらえるようにしました。
――たった一人ですごい挑戦だと思います。でもまだ信頼関係ができていない社員さんたちですよね。どうやって心を開いてもらったのでしょうか。
永井:はじめに「採用の責任者として入社したのになかなか求められる人を集められず申し訳ない」という正直な想いを伝え、「急に私のような者が来て話せと言われても困りますよね」と寄り添う気持ちを大事にしました。「まず永井さんが思う“働きやすさ”を話してくれないと話せません」なんて言われたこともありましたね。

じっくり向き合って、沈黙があれば待ちます。沈黙の末に本音が出てくることもありますから。そうしてだんだんとわだかまりが溶けていったと思います。中には、二日にわたり8時間も話してくれた社員もいたんですよ。
何かを引き出そうとするより、話したいことをそのまま話してもらいたい、身構えず本音を話してもらいたいと考え、面談中はメモや録音は一切しませんでした。
――すごい!たしかに録音されてると思ったら話すことが変わるかもしれませんね。永井さんの寄り添う気持ちがみなさんに心理的安全性を与えていったのだと思います。
オンラインでもできたと思いますが、とにかく対面での面談にこだわられた覚悟がすごいです。
永井:組織診断でも“つながり不足”という結果が出ていたので、まずは私自身が全員とつながることが必要と考えました。
現場の本当の声、これはアンケートでは拾えません。人は、話すことで前頭連合野が働き、気持ちが整うことが科学的にも分かっていますので、対面での話し合いは、相手を楽にしながら本音を聞ける、一番誠実で効率の良い仕組みです。
全国7拠点、96名を終えたときには半年ほど経っていました。最後には当時の社長(前社長)とも面談したんです。みんながどのように面談を行ったのか、社長にも体験してもらえればと思い、生まれ育った環境などもすべてお聞きしたうえで、私なりにまとめた全社の結果報告と解決策も提案しました。
――結局どのようなことが問題だったのでしょうか。
永井:条件面や経営陣への想いなど、不満を挙げればひとそれぞれですが、一人ひとりが感じていた組織への違和感や戸惑いを、直接言葉にする機会がこれまで少なかったことは共通していました。
皆さんなかなか本音を言えないんですよね。だからこそ一人ひとりの面談が重要で、私のような役割の者が、事実をまとめて会社に伝えていくことが必要だと感じています。
その後実施したサーベイでは少しずつ改善がみられました。なにより以前より明るい表情の社員を見かける場面が増えたように感じています。今では必要なときに対面やオンラインで気軽に声をかけてもらえる関係性が、少しずつできてきていると感じています。
――心強い相談窓口があってみなさん幸せですね! ほかにもどのような取り組みを?
永井:一つは、社内から「女性同士話せる場がほしい」という声が上がったことをきっかけに立ち上げた「女性の会」です。人数が少ない拠点では日常的に同性の話し相手がいない女性社員もいるため、オンラインでつないでランチ会を開くようになりました。

また、経営心理士の占い師さんによる「占いセッション」もあります。ひょんなことから知り合った占い師さんを女性の会にお呼びして、希望者に占いをやってもらったところ、とても好評で。社内ではなかなか相談しにくい悩みも相談できて全正社員の約8割がすでに体験しているんですよ。
はじめは「占いなんて…」とあまり期待していなかった人が、笑顔で部屋から出てきたときは達成感ありましたね(笑)。今ではすっかりレギュラー化しましたので、今後はオンラインで地方拠点にも展開していきたいです。

また、毎年開催している全社会議が、社員主体のものへと変更になった際には、今までとは少し違う「答えを求めない」ワークショップ【メッセージインボトル】の実施を提案しました。結果として、普段は言葉にしづらい思いを共有するきっかけの一つになったと感じています。
◆メッセージインボトルの進め方◆
1)悩みを書く欄1つ、コメントを書く欄がたくさん用意された用紙を全員に配布
2)配られた用紙にひとつ、自分の悩みや相談したいことなどを匿名で書き込む

3)全員提出したらシャッフルし、再配布。
4)自分に配られた紙に書かれた悩みに対して、コメントを書き次の人に回す。時間内になるべく多くのコメントを記入。

5)時間が来たら回収し、すべてをテーブルに並べてみんなで見合う。共感できるコメントに「いいね」の意味でシールを貼っていく。


――すごくいい取り組みですね!!自分の悩みに対して、役職、性別、年齢様々な意見をもらえるということですよね。
永井:はい、悩みはやってみたいこと、今さら聞きづらいこと、プライベートでもなんでもよくて、匿名なので書きやすいですよね。コメントのほうも、否定や批判的なことは禁止で共感でもアドバイスでもなんでもいい。
匿名なので、自分のを確認したい人は、みんなで見合っている時間に必死で探す感じですね(笑)

人生の棚卸作業で向き合い方を見直し
――働きやすさの追求に本気で取り組む姿勢、ご自身のご経験が起因しているのでしょうか?
永井:困っているひとを見ると放っておけないたちで、前職の外食チェーン時代は、よく後輩の悩みを聞くと自分まで悩んで、必要以上にのめりこんでしまうようなタイプでした。
採用担当に異動になると、その当時コンサルティングに入っていた人からの指示で、採用チーム全員が「人生の棚卸し」の作業をやったんです。生まれてからどういった経験をしてきて、今なぜここで採用をやっているのかを紐解いていく作業です。
育児に忙しかった頃、毎日のように会っていたママ友がいました。彼女は人間関係に悩んでいて、いつも相談に乗っていましたが、ある夏の夕方、彼女からの電話に出られず外出してしまいました。そのあと遠くでサイレンが鳴り響いていて…自死したことを翌日知りました。
人生の棚卸し作業をしてみて初めて、このことを封印していた自分に気づいたんです。あの時電話に出ていたら助けられたかもしれない、という深い後悔から、人の悩みに過剰にのめり込んでしまう自分が形づくられていたのだと思います。
それ以降は、悩みはその人の悩みとして受け止めつつも、すべてを自分の中で抱え込まないよう、少しずつ意識するようになりました。一人で背負わせない状態をつくることこそが、何より大切だと今は思っています。
――つき放すのではなく、しっかり自分で自分に向き合ってもらうようサポートする。これこそが永井さんがお辛い経験を経て体得した優しさなんですね。
永井:働く中で感じる迷いや違和感は、誰にでもあるものだと思っています。それに一人で向き合い続けるのは、簡単なことではありません。だからこそ一人にしないこと、耳を傾け続けること。私はこれからも社員と組織の間で橋渡し役を担っていきたいと思っています。

―取材後記―
名刺交換のとき「アヤセハルカです~よろしくお願いします」なんて挨拶をするインタビュイーは初めてでした!おちゃめなお人柄の永井さんにすっかり魅了された取材時間でした。
現在、そんな永井さんのもとには毎月3~4人「話を聞いてほしい」と社員から直接連絡が入るそうです。「組織の感情」は、今や彼女というフィルターを通して、会社の成長を支える資産になっています。
四人の子育て、家計の崩壊、友人の死──。 常に「困っている人を一人にしない」という覚悟は、彼女の人生でのあらゆる経験から培われたもの。それが今、ビーモーションにおいて「社員を一人にしない」という仕組みとして結実していました。
組織を変えるのに、最初から大きな予算や人数がいるでしょうか。その疑問を永井さんが否定してくれました。必要なのは、目をそむけたくなる現実を直視し、「あなたの声を聞きたい」と、一人ひとりと丁寧にひざを突き合わせる、そんなリーダーの覚悟だけなのかもしれません。
| プロフィール | 永井美也子(ながい・みやこ) 総合政策部 働きやすさ推進室/室長
ビーモーション株式会社 https://www.bemotion.co.jp/ 大学在学中に結婚・出産し、授乳しながら講義を受け休学することなく卒業。卒業後は専業主婦として子育てに集中するも、数年後夫の退職を受け、大手外食チェーンにてパートを始める。半年後に社員登用され、営業店舗責任者、エリアマネジャー、人事採用担当者とキャリアを重ねていく。そのかたわら、大学3年へ編入し卒業。2018年ビーモーション入社、採用マネジャーとして5年従事したのち、2023年に「働きやすさ推進室」を立ち上げ、現在に至る。四児の母。産業カウンセラー(JAICO認定)、キャリアコンサルタント(キャリアコンサルタント)、ドローン操縦士。 |
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セッキ―
ライタープロフィール
2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。いつかはインタビューされる側になりたい!
セッキ―
ライタープロフィール
2014年入社、当社で初めてライターに挑戦。キャリアのスタートは銀行員、その後リクルートグループ、大手税理士法人、スポーツアパレルなど複数の事業会社で管理部門、企画部門、秘書などを経験しながらカルチャーショックのシャワーを浴びまくる。2度の高齢出産を経て復職し、現在家事・育児・リモートワークに奮闘する毎日。無類のコーヒー好きで趣味はハンドメイド。整理収納アドバイザー(準一級)、防災士。いつかはインタビューされる側になりたい!
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